第20話 インプリンティング

「卵……?」

「そう、卵。蘇芳君のゆで卵でひらめいたの。卵が先か鶏が先か、なんて話があるけど、魔力から生まれた場合は卵、なんてね」

「卵生の魔物ということか?」

「えっと、卵生だけどこれが成体。子供でも大人でも卵でいる状態が基本の魔物だよ。殻に触れてみて」


蘇芳はブランの持つ慎重に手を伸ばした。その卵の殻は普通の卵の殻とかわらない。しかしとくに強く触れたわけでもないのに、触れた部分にヒビが入った。


「わ、割れたぞ!」

「ぴ」


卵の中から雛が生まれた。黄色いふわふわした体につぶらな瞳で蘇芳を見上げる。そしてかわいくも頼りなさげなぴよぴよという声を上げた。


「はーい、蘇芳君がママですよ〜良かったですね〜」


ブランは孵ったばかりの雛を床に置いた。すると雛はすぐさま殻から脱出し歩きだす。そして蘇芳の足元にまとわりついた。ぴよぴよ言って、足にすりすりとまとわりつく。


「これは……成長したらどんな魔物になるんだ?」

「成長しないよ。ずっとこのまま」

「は?」

「これはインプリンティングエッグ……は長いからインプリッグって名付けようかな。基本は卵の姿だけど、侵入者が触ったら殻が割れるの。で、触った人についていくものなの。刷り込みで親だと思っているみたいなものね」

「はぁ……」


創造の瞬間を初めて見た蘇芳達はただただ感心してしまう。魔王とは考えて指ぱっちんするだけでこんな生物を生むことができるのか。しかもブランの反応を見る限り、今のところ想定内の出来らしい。

しかし蘇芳は問わねばならない。この魔物は本当に強い魔物なのか。敵をしつこく追うという点だけを考えれば悪くはない。しかしこんな可愛くて非力そうな魔物に追いかけられたとしても、侵入者はなんとも思わないはずだ。


「わかった、この魔物は侵入者の気の緩んだ隙を狙ってがぶりと頭から噛み付くんだな?」

「違うよ」

「じゃあ、相手にまとわりついて自爆するのか?」

「それも違うよ。もう、なんで蘇芳君はそう考え方が物騒かなぁ」


魔王にそんな事を言われたくはない。どちらかと言えば物騒なものを作るのが魔王の役目だと蘇芳は思う。


「魔王立研究所の研究結果だけど、人間がより恐怖を感じるのは『自分よりもか弱いものと一緒にいる時』なの。守らなきゃいけないって思うからなのね」

「また魔王立研究所か……」

「このインプリッグは侵入者についていく。インプリッグはちいさくて可愛いくて弱い。そうしたら一緒にいる侵入者の恐怖はマシマシ。歩みは遅くなり些細な物音にもビビり雛をかばって自滅する、ってわけ」

「…………やりたいことはわかるんだが、即戦力ではないよな?」

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