第19話 ゆで卵

蘇芳とブランは出会って間もないはずなのに親しげだ。それを見て、他の部下は蘇芳に嫉妬するかもしれないし、ブランを不審に思うかもしれない。そんな余計なトラブルを防ぐため魔石を運んでいるという事にしているのだろう。そしてこうしてくだけた雰囲気で創作するのが目的だ。魔王にとって今この時が一番心休まる時なのだろう。


「おにぎりでしょ、唐揚げでしょ、お芋の煮たのでしょ、あ、これゆでたまご?」

「あぁ、開けてみるといい。君の要望に答えたつもりだ」

「開ける?」


ブランが聞き返すと、蘇芳は箸をゆで卵の切り込みに差し込み、上半分を持ち上げた。

するとゆで卵の黄身部分が現れる。その黄身には胡麻や薄焼き卵で作った目や口があった。


「『かわいい弁当がいい』って言ったのは君だろう」

「これは……かわいい! まさか蘇芳君がこんなの作れるなんて……!」


几帳面に詰められたおかずの中、見た目に気を使ったそれは浮いていた。しかしそれ故にブランには愛しいものに思える。

普通に料理上手な蘇芳だが、こんなかわいいものを作ったのは初めてだったはずだ。


「なんてひらめきなの。まさかゆで卵を羽化するひよこにするなんて! すごいよ蘇芳君!」

「いや、そこまで驚かれても。ゆで卵を飾っただけだし」

「そう、ゆで卵で……、ひよこで…………閃いた!」


ブランは急に叫んだ。そして机はお重に占領されているため、壁を机にし、紙を押し付け何事かを書く。

またしてもあっけにとられる撫子達だが、蘇芳はそれを放置して茶を入れだした。


「放っておいていい。こうなるのが目的だ」

「これが目的、ですか?」

「ひらめきを得たんだ。なんでか魔王陛下は俺の弁当を食べるとどんなスランプでもひらめくらしい」

「……まだ食べていないようですが」


撫子は突っ込んだが、蘇芳は曖昧に笑うだけで答えなかった。

物資を届けるという任務は初めてだ。しかしこうなるのは初めてじゃない。きっと、撫子の知らないところで前にもこんな事があったのだろう。

しかし聞いてはいけない気がして、撫子は蘇芳に勧められるがまま、弁当を食べだした。


「もう書くのはまどろっこしい! 作っちゃお!」


ブランは書きこんでいた紙を投げ、指をパチンと鳴らした。すると魔力が指先に集中し小動物くらいの塊となる。

塊はしばらくグニグニと動いていたが、やがて楕円となった。

それをブランが両手で丁寧に支え持つ。それは卵だった。鶏のものよりは大きく、ダチョウのものよりは小さい。

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