第5話『模倣犯』

いずれ訪れるであろう人の死。

普通であれば、老衰、病気、少ない確率の事故で死ぬだろう。

事故はあくまで、自然現象のモノと人為的によるものの2つがあると思う。自然は天災。地震、地滑り、足を滑らせ崖の下へ、台風の暴風で飛んできたものが…。大体はそんなところだろう。

少ない確率での事故は、人為的なもの。宝くじに当たるかどうかの確率。ある意味の自然現象に近いしい。だが、人の手が加えられている。それが無意識的になのか、意識だ的なのかにもよるけど。

たまたまそこに居合わせただけ。あと1秒ズレていたら死なずに済んだ。それは自動車事故などによる無意識的な人為的な死。これは本当に偶然が重なった悲しい事故なのだ。

それ以外のは、誰かの恨みを買ってしまい、それによる他者からの負の感情による、計画的な意識的な殺人。死。

そう。殺人とは、無意識的にではなく、意識を持ち、自身の感情、思想に基づき起こす、計画的で無理やり引き起こされる死。

恨み、怨恨、妬み、嫉み、嫉妬、それらの感情が、自身の許容範囲を超えると行ってしまう非人道的な行為。

なら、それ以外の感情での殺人はどうだろう?

さして、恨みもなく、その人そのものとの関係性もない。

ただ、人を殺すという行為への興味からくる殺人。それらは俗に言うサイコパス。人に人の意識を測れない。そういう限定的な人種。

それらの思考を手にしたのは、先天的か後天的か?だか、そういう思考回路になった人間を元に戻す方法は、おそらくまだ確立されていないのだろう。

私は何に当てはまるのか?

この人達になんの接点もなかった。でも興味があった。影響された。人殺しではなく、今、世間を騒がせている殺人鬼への憧れ。

人を殺す"人"ではなく、人を殺す"鬼"に。

自身の死が早まった気分はどうだろう?こんな所で、こんな事で、こんなシチュエーションで。

死ぬってどんな気持ち?走馬灯って本当にあるの?昨日笑い合っていた知り合いがモノとして横たわっているのを目にした気持ちは?

理由があったようでなかったようで。少なからず我慢できなくなってきていた。前回の殺しから1週間だ。またやりたくなる。薬物中毒者の気持ちってこんな感じなのだろうか?

貴方達は、私をナンパしてきた。男2人で。他にやる事があるだろう。ヤレれば誰でも良かったのであろう。なんで私に声をかけたのだろう。

我慢に我慢を重ねて、押さえつけていた衝動に思考を汚染されながら耐えている私を。

声をかけてきた事で糸が入れた。そこからは簡単だ。人気のない廃屋に連れて行かれて、本当に人が居ないことを周囲を見渡し確認したのち、ポケットに入れておいたナイフで1人目の喉を突き刺した。なんと呆気ない事だろう。一刺しで死んでしまった。

2人目は、目の前で何が起きたか、まだ脳の処理が追いついてないようだった。

私の衝動は解放された。その解放の矛先を2人目に当てることにした。

すかさず、1人目の男の喉に突き刺さっているナイフを抜き、呆然としている男の足首の腱を切ってやった。

悲鳴と共に泣き叫び、痛みもがく男。その悲鳴を聞き、少しだけイっちゃったかも私…。これからが楽しみなのに。

どうしようか?私が恋い焦がれている殺人鬼はどういう方法で殺したのだろう?

とりあえず、ネットで見たものを片っ端から試そう。死なないように、丁寧にやらないと。"壊れちゃうから"

にやけ顔が止まらない。高揚している。最初の殺人の時は、何も味合うことなく終わってしまった。さっきの1人目のように。ただ人を殺したという事実だけで最初は興奮したけど、私が求めているのは、もっと違う。私が憧れている殺人鬼は、もっとアーティスティックな殺し方をするに違いない。

私の中での憧れは、膨れ上がり、勝手な理想像を作り出していた。

どう殺したら近づけるだろう?どう殺したら褒められるだろう?男は助けてくれと懇願しているように叫んでいるようだけど、もうそんな言葉は耳に入りはしない。脳が処理をしない。私の思考は、どう残虐にアーティスティックに殺すかしかないのだから。

ナイフを握り直して、這いずり回る男の足を掴み、廃屋の奥へと連れて行こうとした時、

「その辺でやめておけ!」

男の声は何も入ってこないのに、不思議と頭に綺麗に入ってきた声。

その聞こえる方を向くと、月明かりがちょうど指して、人の姿が現れた。

黒髪が綺麗な少女と、私と同じくらいの歳の男の子がそこには立っていた。


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