第6話
「夏が終わる……ひぐらしの鳴き声がエモいな」
いつものテーブルに突っ伏してダラけているスタイルのまま、夏の終わりを悲しんでいる台詞を吐く黒髪美少女。
「エモいって流行り言葉、どこで仕入れてきた?」
晩飯に使うニンニクの皮を必死に剥く。なんか、すぐに剥けるアイテムがテレビでやってたけど、持ってないので一つ一つ指で剥いでいく。
「いや、ワイドショーのインタビューで出ていたJKが使ってた」
「JKって単語も覚えたのね」
いらん事ばかり覚えるな。あと、少しだけでも手伝う素ぶりを見せてよ。
「そういえば、最近増えたな」
コーラが入った氷入りのキンキンに冷えたグラスを突っつきながら怠そうに言うサヤ。
「別に無理に会話しなくていいぞ」
黙々とニンニクの皮を剥く。
「いやいや、別に普通に話してるだろ。見た目ダレてるだけだから。こんな体制だけど、夏が終わる事がエモいって心の底から思ってるから」
「お前、エモいって言いたいだけだろ」
ニンニクってこんな剥くのめんどくさかったのか。チューブのにすればよかった。
「あー、夏の終わりにタピってエモりたいなあ〜」
「いや、無理矢理流行りを詰め込まれても」
覚えたての言葉を使いたがる子供みたい。まあ、実際会った頃は知らない事の方が多過ぎて困ったりしたけどさ。
「んで、本題。何が増えたって?」
「ん?本題?タピオカの話?」
「違えよ!その前に話し振ってきたろうが。最近増えたなって」
「ああ、ひぐらしの鳴き声エモいのあとね」
お前、ホントにエモいって言いたいだけなんだな。
手元に置いてあるグラスの中に注がれているコーラを一気に飲み干して改めて
「最近、模倣犯が増えた」
ああ、そういうことね。「確かに」とサヤの顔を見ずに言葉を言葉通り受ける。
「あれだな、人間っていうのはブームに乗るのが好きなのか?タピオカと同じだな」
犯罪と一緒にされるタピオカって酷い話だ。でも、その通りでもある。1人が事を起こすと、連鎖的に同じような事が続いていく。まるで流れを途切れさせてはいけない見えない川のような…。勿論、メディアで報じられて、それを見て触発されての突発的なのもあるだろう。いや、大体がそれか。その流れの大元を作っている者は罪深い。
サヤはやれやれといった仕草で
「人間とはなんて愚かな生き物なのだろうか。死ぬまで鳴き続けるひぐらしを見習ってほしいな」
みんな、お前にそんな事言われたくないよ。少なくとも、タピオカと人殺しの模倣犯を同義にしているヤツには。
よいしょっと言って立ち上がったサヤは、グラスを持ってキッチンの方へ向かった。おそらくはコーラを補充しに行ったのだろう。
「あ!ヤバイ!カナメ、ヤバイ!」
少し焦っているように聞こえたので、何事かと体の向きをキッチンに向ける。
「ラー油が残り少ない!ラー油が無い餃子なんて、タピオカがないミルクティーだ!!」
「いや、ミルクティーは普通はタピオカ入ってないから」
そう。今夜は餃子なのだ。ニンニクを用意していたのは、餡に入れるため。
「ラー油無くてもいいじゃん。醤油と酢だけで」
本音はあった方が美味いけど、買い出しがめんどくさいだけ。
「アホ!ラー油が無い餃子なんてな…」
押し問答の末、結局は買い出しに行く事に。コンビニでいいか。スーパーまではめんどくさい。
財布を後ろポケットに入れて家を出る準備をする中「私も行く!」と珍しくついて行こうとするサヤ。
「珍しい」
「いや、コンビニのタピオカミルクティーを買って貰おうと思ってな!」
「タピオカに心身共に犯されてるんじゃねえよ!」
6───────7
カナメとサヤの日常 華也(カヤ) @kaya_666
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