第2話

「夏南(かなん)、やっぱ水泳部入んねえの?」

ぱしゃりと水に浸した足で水面を軽く蹴りながら竜貴が聞いてくる。

「入らない。タイムとか練習とか…競って泳いだり、自由に泳げないの、嫌い」

答えながらゆっくりと背泳ぎで進む。あー、と竜貴が納得したような声で頷いた。

「確かに。夏南に型にはまった泳ぎは似合わないよな」

ぱしゃぱしゃと水音をたてながら、自然と唇が弛む。竜貴はいつだってわたしの事を一番分かってくれる。それが、すごく嬉しい。

「なー夏南、お前、海嫌いってマジ?」

「マジだよ」

即答すると、竜貴はちえー、とふくれた。

「じゃあ夏南の水着姿見れねえじゃん」

「今見てるじゃない」

ぶんぶんと頭を振りながら、竜貴は、ちーがうー!と叫んだ。

「そんな水泳着じゃなくて、俺が見たいのはビーキーニーなーのー!」

激しく足をばたつかせながら子供のように主張する。思わず声を出して笑ってしまった。他愛のない会話がそこから続いていく。騒がしい個とが嫌いなわたしだけど、竜貴とのお喋りは嫌いじゃない。わたし達はつき合ってるわけじゃないけど、つき合ってるのと同じだと、そう思っている。竜貴も多分、同じ気持ちでいてくれると思う。

そうじゃなきゃ、こんなにわたしを利害得失してくれていないし、側にいてもくれないだろう。

ぱしゃりぱしゃりとわたしが水を掻く音と、ぱしゃんぱしゃんと竜貴が水を蹴る音が混じりあい、心地好い音楽みたいだ。

「――そういえばさ、夏南は何で海嫌いなんだ?」

会話が途切れた瞬間、竜貴が決心したように聞いてきた。多分、ずっと聞きたかったことなんだろう。

誰にも話す気なんかなかったけど、竜貴ならかまわない。むしろ、お互いをもっと理解しあうためにはこの話はしておくべきだろう。私は、プールの底に爪先をつけ、ゆっくりと口を開いた。

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