No.136 隠密じゃないの??

王城侵入予定時間の1時間前。

王城の地下室に行くために準備をしたうちらは宿の地下に集まっていた。

宿主は事情を知っているのか何も話しかけることはなく、地下室に案内してくれていた。

案内された部屋には赤茶に錆びれた鉄の扉がどーんと構えていた。

うちらが地下室に入るなり、宿主はすぐに受付カウンターに戻っていた。

さぁ、ここから本番だな。

ここから王城までかなりの距離があり、忘れ物を取りに行くのは面倒なので準備物を再度確認する。

片手剣、小型ナイフ、水筒、そしてストラップのように今は小さくしているうちの相棒、バッド。

最低限のものがあるかどうか確かめると、うちは顔を上げた。

サンディ、ナイル、ニトの3人はすでに点検し終わっていのかうちを待っていた。


「さぁ、行こうか」


うちがそう言うと、錆びれた重いドアの取っ手に手を掛けた。

そのドアをゆっくり開けると風が一気に吸い込まれていくように流れ出す。

体を崩すほどの勢いではない。

しかし、長い桜色の髪が暴れ、視界がピンクまみれになりそうだったので、うちは髪を結ってポニーテールにした。

地下道はそんな滅多に利用しないのか真っ暗で明かりはなかった。

うちらはそれぞれでちょっとだけ使える光魔法で明かりをともす。

石畳の地下道は意外と幅があり、これは行けると判断したうちはサンディに犬の姿に変わるよう指示すると、サンディはムーンライト犬に変身しうちはその上に乗っかる。


「おい、お前。歩けよ」


睨むような目つきでサンディの背中に乗ったうちを見るニトは言った。

あ。

コイツさてはうちがサンディに乗れるから恨めしそうにしてるんだな??

本当は乗りたいんだな。


「やーだ」


乗せてやるもんですか。

チート能力を持つあんたらは歩けばいい。

うちはあっかんベーとニトに向かってやっていると、ナイルがポケットの中から何かを取り出した。

ナイルの手にあるのは小さな箒……??

彼の手にはミニチュアサイズの箒があり、その箒はナイルの手に収まるほどの小さなものあった。


「いいじゃん、ニト。僕らにはこれがあるんだからさ」


そう言ったナイルは箒になにやら唱えると、箒は一瞬光を放ち、光が落ち着くころには普段見る箒の大きさに変わっていた。


「お前ら、それに乗るのか??」

「そうだよ」


だったら、この距離だとそんなに時間かからなくないか??

歩くと長時間かかるが、サンディの走るスピードは前世でいうと車の制限速度ギリギリ。

箒もそれ以上のスピードは出せると聞いたことがある。

ナイルのことだから念には念をと考えたのだろうが。

大きくなった箒にナイルとニトは乗ると、箒はわずかであるが浮いた。

今世ここに来て初めて魔法の箒というものを見る気がするかも。

なんて感動していると、ニトが顎を振って「正面を見ろ」とジェスチャーしてきた。

分かってるよ。

集中しますから。


「じゃあ、行くぞ。サンディ!!」

「ワン!!」


あ、そこは犬の声なんだ。

うちが出発の合図をすると、サンディとともに真っすぐな地下道を駆けだした。




★★★★★★★★




午後9時に出発したうちらは予想していたよりも時間がかかり、20分ほどで王城の地下室に繋がっているであろう扉の前までやってきた。

扉と言ってもうちにはただの壁にしか見ない。

ナイル曰く隠し扉だとか。

何も言われなかったら行き止まりかと思うぞ。

扉があるその場所に到着するなり、ニトは箒から降りて行き止まりとなっている切り石積みの壁に手を当てる。

ニトが1つの石の部分を奥へ押すと、とたんに他の石たちも横へ横へと道が開かれるかのように動き始めた。

隠し扉であるためか、ゴゴゴゴゴゴゴという音はなく静かで、あっという間に目の前から壁が消えていた。

そして、姿を現したのはうちらが通ってきた道よりも狭そうな道。

その道は横切るように左右に伸びている。


「おい。これは??」


うちが尋ねると、ナイルは歩きながら説明してくれた。


「この道はまだ隠し道なんだ。だから、まだ安心して通って大丈夫だよ」


うちはナイルの言葉を信用してその道に足を踏み入れる。

隠し道2と名付けようかその道は先ほどと変わらず明るい黄色の石畳。

その道は王城の地下室の廊下に沿うように作られているらしい。

左を向くと行き止まりで、右を見ても同じだった。

しかし、ナイルとニトは「お前ら、クラピカ信者か」と言いたくなるぐらい迷いなく右へ進む。

まぁ、2人は何度も来たことがあるって言ってたし正解なんだろうけど。

うちと姿を人間に戻したサンディは目を合わせるなり、肩をすくめてしまった。

仕方なくうちらはナイルたちが進む方向へ歩いて行った。

右側の行き止まりまで来ると、ナイルは壁に空いていた僅かな穴から外を覗き込む。

きっと兵士がいないか確認しているだろうけど。

その間にニトがこれからのことを説明してくれた。


「ナイルが様子を見て、行けそうだったら、ここにある隠し扉をまた開く。今度は出入りする俺らの姿が見つかると面倒だから、走って出ろ。そこから真っすぐ行った先に階段が見える。そこの階段から地下3階まで一気に降りる」

「その後は??」

「階段を降りたら、目の前に豪華な装飾が施された銀の扉が現れるはず。扉の前には兵士がいるはずだから、そこはもう兵士をぶっ飛ばしていけ。いいな」


最後は力技じゃねーか。

ゴール手前までこっそり隠密に行動してきたのによ。

内心その無茶苦茶な計画に文句を抱きつつも「はいはい」と返事をして顔を隠すようにフードを被った。

それから40分後。

ようやく兵士に動きがあり、ナイルが「今なら」と呟くとニトは壁の石の1つを押すと、廊下がある方の壁の石が動く。

緊張感が高まるうちは全力ダッシュで走り出した。

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元ヤン王女の研究記録 せんぽー @senpo

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