元ヤン王女の研究記録

No.134 成長したスパイ

「なんだ……お前か。びっくりさせんなよ」

「いやぁ、アメリア様ならお気づきなっていらっしゃるかなと思いまして」

うちの部屋に物音もさせず、入ってきていたのはいつからかうちのスパイとなっていたゾフィーだった。

どこぞの変態忍者のような格好をしている彼女はパーソナルスペースを知らないというくらいうちに近づいてくる。

「近すぎる、ちょっとは離れろ」

「うぅ……アメリア様、酷いですわ。でも、そんなS気があるアメリア様もいいぃ……」

「そのドМ思考やめろ。てか、なんでお前がここにいるんだよ」

「私はアメリア様の忍びです。主がどこに行こうとついていきますよ」

「じゃあ、お前、紅の魔女の家まで来てたのか？？」

「いえ……アメリア様はそんなところにいらっしゃったんですね。私はこの国にアメリア様がいそうな気がいたしましたので、やって参りました」

何という直感と行動力。

なんとなくで奴隷の国（ここ）に来るお前がすごいよ。

「しかし、アメリア様がホワイトネメシア王国で失踪なされて皆さん大混乱ですよ」

「やっぱか……」

予想はしていたけれどな。

「はい。特にフレイ様の動揺っぷりには少々フレイ様の方が心配なるくらいすごかったですよ」

「アイツが？？」

フレイはうちの別の姿アメリア王女にぞっこん。

王女は確かにうちだけど立ち振る舞いはまるで別人。

そんな王女に惚れていたはずのフレイがなぜそんなにうちのことを心配する必要がある？？

まさか、うちの正体がバレたんじゃなかろうな？？

「まぁ、皆さん心配していますし、私自身アメリア様がどこにいらっしゃるか気になったので」

「お前、ホワイトネメシア王国にはついて来なかったのか」

「はい。もちろん行きたかったのですが、家の方の用事があって抜け出せなくて……すみません」

「いいさ。サンディもいたし、死にそうなこともなかったし。で、お前はこれからどうするんだ？？」

「私はアメリア様にずっとお付きしておこうと思っていますが……何かあったんですか？？」

昼間に会った男。

うちは本当はアイツを探しに行きたい。

しかし、今外に出ればナイルにあーだこーだ言われるし、首輪だって外れないかもしれない。

だったら、最近鍛えているゾフィー（コイツ）に男を追わせたらいいんじゃないか？？

うちはそのことをゾフィーに説明すると、ゾフィーはあたかも当たり前のように「ええ。大丈夫ですよ」と答えた。

「おい、そんなあっさり返事して大丈夫なのかよ。どんなやつか分からないんだぞ」

「それを調べてくるのが私の仕事ですよ。大体、私はアメリア様に使える決めた身ですし、当たり前のことですよ。あと、自分のことを主に心配されるようじゃあいけませんので」

「まぁ、お前がそんなに言うのなら……くれぐれも無茶はするんじゃねーぞ。命の危険を感じたらすぐに逃げろよ」

さすが忍びと言ってもいいのだろうか、ゾフィーは「はいはい」と返事をしつつ、４階であるここの窓から外に出ていく。

「アメリア様も強いとはいえ、この国は結構危なっかしいようなのでご注意ください」

「ああ、分かってる。連れが何度も言ってるからな」

特にナイルが。

「では、明日の夜には報告しに参りますので」

「ああ。分かった。気をつけろよ」

うちはゾフィーに軽く手を振ると、彼女は「行ってきます」と言って慣れた手つきで窓から飛んだ。

彼女は上の方に行ったのできっと屋根を移動するのだろう。

植木鉢令嬢なんて呼んでたけれど、ゾフィーはもうあの時のようにヤワじゃない。

本当に慣れたもんだ。

うちは成長したゾフィーを感心していると、中々訪れてこなかった眠気がやってきた。

窓を閉め、うちは布団に潜り込み目を瞑った。

★★★★★★★★

次の日の朝。

うちは目を覚まし、着替えると部屋を出て宿のロビーに向かった。

男ども３人はすでにロビーに来ており、うちと合流すると朝食を食べに外の店に足を運ぶ。

奴隷の国とはいえ、人の出入りが激しいため商人たちや観光客が利用するお店がたくさん立ち並んでいた。

うちらはその1つのお店に入り、朝食を済ませると、宿に戻った。

そして、今うちは男子どもの部屋の椅子に座っていた。

もう1つの椅子にサンディが座り、あとの2人はベッドに腰を掛けている。

「それで、何時に王城に忍び込むんだ？？」

「午後10時それくらいを予定してる。その時間であれば8時に兵士たちが交代するから少し警備が緩んでいるんだよね」

「侵入口はどこになるの？？」

サンディはうちがもう1つ気になっていたことを尋ねてくれた。

「王城外にある建物の地下室から王城の地下1階に繋がっている地下道を行く。時の扉がある場所は地下3階と言われているから、警備で歩き回っている兵士に注意していく予定。まぁ、無認識魔法をかけるから大魔導士でない限りバレないだろうけど」

「その王城の地下室と繋がっている建物はどこにあるんだ？？」

「ここだ」

ニトはあたかも当然かのように真下に指をさす。

ここって……この宿？？

王城からかなり距離があるんじゃないか。

うちがそう訴えると、ニトは呆れたようにため息をつく。

「しかたねーだろ。侵入しやすいのはこっからだし、見つかる可能性が低いんだからさ。ここから王城までの直線距離がある地下道を歩くしかねーの」

えぇ。

普通に正面から侵入したいな。

そう呟くとナイルは聞こえていたのか、「絶対止めてね」と真剣な顔で言われた。

はいはい、分かってますよ。

発見されたら厄介ですもんね。

「だから、出発の時間を9時ぐらいにしたいんだけど、どう？？」

「ああ」「大丈夫だよ」「おう」

うちらはそれぞれ返答すると、立ち上がり各自準備に取り掛かった。