No.133 シルエット

「これはこれは……桜の髪色の奴隷とは珍しい」

「誰がこの子を売っているのかね……」


子ども奴隷たちを引き連れていた男にやられ、髪色の珍しさに多くの人がうちの付近に集まっていた。

一部の人はうちを奴隷商品だと思い、売り手を探している。

これじゃあ……むやみに身動きが取れない。

この気持ちの目つきの商人や奴隷を買いに来たやつらをぶん殴ることができたらいいのだが。

やり場のない不満に歯ぎしりしていると、「アメリアー!!」と叫ぶ声が背後から聞こえた。

振り向くと、置いて行っていたサンディたちが走ってくる。


「ア、アメリア。どうしたの?? 急に走り出して」

「いや……気になったやつがいてな」


サンディは真っすぐにうちの心配をしてくれていたが、他の2人はうちに背中を見せていた。

うちを守るように囲っている。

すると、ある1人のおっさん商人がニトに近づいてきた。


「なぁなぁ……お前がこの奴隷を売り出しているのか??」

「コイツは売り物じゃない」

「首輪がついているじゃないか。どう見たって奴隷じゃないか。売ってくれよ」


おっさんがそう主張すると、彼は素早く手の内に隠していた小刀でおっさんの首を抑える。


「……売り物じゃないっつってんだろ」


学園にいた時の気品があったニトとは思えない低い声で彼は言った。

その声からは少し怒りも含まれているように感じる。

おっさんはニトに圧倒されたのか、後ずさりをさせ尻もちをついていた。

怯えているおっさんの手は小刻み震えている。

よし。

よくやった、ニト。

とうちが褒め、ニトにグッジョブとサインを送っていると、彼は口角を上げた。

あ、あれ??


「アメリアは俺の奴隷だ」

「なっ」

「だから、売り物じゃないっつてんだろ。俺の奴隷なんだ」

「そ、そうだったんですか。すみません」

「分かったのならいい」


ニトはそのままそのおっさんと話しだし、奴隷の紹介を聞いている。


「誰がぁ……お前のどれ……」


ニトがうちのことを奴隷と宣言したことに反論しようとすると、手首を誰かに引っ張られ、人の塊から引きずりだされる。

手首を掴む腕をたどっていくと彼の後ろ姿があった。

サンディはうちに「静かに」と言って大通りから外れた狭い路地へと連れていく。

振り返ると、ニトとナイルはみんなの気をそらすためか商人や奴隷買いの人の対応をしていた。

一時歩き、後ろから誰もついて来ていないことを確認すると、サンディは足を止めた。

うちも合わせて立ち止まった。


「なぁ、サンディ。さっきのやつ見たか??」

「さっきの奴ってアメリアが話しかけていた人??」

「そうだ」

「見たけど……それがどうかしたの??」

「アイツに違和感を抱かなかったのかと思ってな」


あの子どもの奴隷を連れていた男は確かに他の者とは違った。

しかも、アイツが放っていたオーラにうちは出会ったことがある。

初めてではない。


「変な人ではあるなとは感じた。でも、紅の魔女ほどじゃない」

「ふーん。そうか」


サンディとあの男について話していると、ナイルとニトが商人たちを撒いたのかうちらのところまで追いついてきた。

やって来て早々2人はうちに対し呆れた目を向けている。


「お前な……急に走り出すのはやめろよ」

「そうだよ。ここ、女の子にはそんなに優しくない国なんだから」

「女の子扱いすんじゃねーよ。散々怪物扱いしてきたくせに」

「まぁ、確かに君は化け物であるけど」

「否定しろよ。そこは」


走ってきた2人の息が整うと、ニトは「で」と話を切り出す。


「これからどうするの?? ナイル??」

「とりあえず宿に行こうかなって」

「あーね。どこかの誰かさんが無駄な体力を使わせたんでひとまず宿で休んでって感じか??」


ニトはちらりとこちらに視線を向けながら言った。

皮肉たっぷりに言いやがる。

絶対うちに言ってるな。

うちだって好きで走ったんじゃないんだよ。


「そうだね。今日は1日休んでいいと思ってる。僕らは王城あそこに何度か行ったことがあるし」

「え??」


行ったことがある??


「お前ら王城に入ったことがあるのか??」

「うん」「ああ」

「なんで??」

「普通に依頼かな」

「ババアが行けっていうからな。セクエンツィアここの王様がどんなのか調べてこいとかいうもんだからな」

「ふーん」


あのババア変なことを言うんだな。


「だから、今日は1日休憩しよう!! サンディも船酔いのせいで疲れてるし、宿でじっとしておこう」


ナイルがそう言い切ると、これといった用事はなかったので素直に言うことを聞き、4人で宿の方に行った。

まぁ、宿に着くまでにうちの考えを読まれて勝手に1人で外を歩くはやめろとナイルに何度も言われたが。

あーあ。

あの男を探したかったんだがな。




★★★★★★★★




その日の夜。

うちらはそのまま宿にずっといた。

何もせずだらだらしていたわけではない。

セクエンツィアの王城の見取り図を確認し、どこからが侵入しやすいか慣れているナイルたちから説明を受けていた。

まぁ、それもそこまで時間がかかるような事でもなかったので、夕食を済ませると各自自分の部屋に帰った。

もちろん、うちは1人部屋。

男子3人は別の部屋である。

心配していたサンディはうちと寝たがっていたようだが。

風呂に入って寝ようとしていたのだが、布団に入ってもなぜか目を閉じることはできなかった。

時の扉が気になってというのもあるが、昼間に会った男のことも頭から離れられなかった。

ベッドで寝ていたうちは布団から出て部屋に1つだけある出窓に近づく。

出窓からは空が晴れているのか、青白い月明かりが差し込んでいた。

自分たちが止まっている宿は大通りから少し離れたところにあったが、出窓からも大通りの様子が見えることができた。

大通りはまだ明かりがついており、窓を開けると騒がしい声が聞こえる。

うちはセクエンツィアの夜の街の景色を窓にもたれて見ていた。

もっと物騒な街と思っていたが、悲鳴も聞こえない。

ここは意外と治安がいいのか??

なんて考えていると、背後からこつんと床を歩く音が聞こえた。


「!?」


パッと瞬時に振り返ると、黒い人影があった。

顔は良く見えない。


「誰だ……??」


そう尋ねると、シルエットから判断して華奢な体を持つその人は1歩ずつゆっくりと近づいてくる。


「ここにいたんですか、アメリア王女殿下」

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