No.132 子どもの奴隷

セクエンツィアの港に静かに到着したうちらは船から降り、とりあえず近くの街まで向かった。

その訪れた街の姿はやはり聞いていた通り。

道端では首輪をつけられた子どもたちが檻の中に入れられ、その檻には値札がついていた。

気持ちの悪い笑みのおっさんが客に子どもの奴隷を売っている。

セクエンツィア国の街は大通りの道にも関わらず、まるで当たり前のように平気で大人や子どもなど多種多様な奴隷を売っていた。

服も身もボロボロの奴隷たち。

そっと道を歩くうちを見る彼らの瞳は光がなかった。

彼らと目が合うと、うちは深くフードをかぶり桜色の髪を隠す。

何もないのなら、あの檻を壊してやるんだがな。

目的は王城の地下室であることを思い出し、暴れだしたい思いを堪え、大通りを進む。


「はぁ……だいぶマシになってきたぁ……」


さっきまで青い顔をしていたサンディは時間が経ったおかげかいつもの調子に戻っていた。

サンディもフードを被っているが、肌の色も戻ってきていることは確認できる。

まぁ、肌が白いことに変わりがないが。

このぉ……女子みたいな肌をしやがって。


「お2人さん、あれが王城だよ」


うちとサンディが王城までの道のりを知っているナイルとニトの後ろを歩いていると、ナイルが山の方を指さす。

大きな山の手前には一回り小さな山があり、そこには高い塔が並ぶ城がそびえていた。

街全体を見渡せるようにしているのか、それなりに距離があるうちがいる街でもはっきりと城の姿が見える。


「あれがセクエンツィアの王城か……ここからかなり距離があるな」

「大変だけど歩いてもらうことになるね」


ナイルがそう答えると、ニトが

「なぁ、移動魔法を使おうぜ」

「うーん。魔水には限りがあるからな……」

「じゃあ、自分たちで移動魔法を使えないのか??」


うちがさらなる提案をすると、ナイルは一層うなった。


「できないこともないけど……僕らがやってしまうとどこに着くか分からないんだよね」

「トランスファーマリンよりも便利だと思ったんだがな」

「トランスファーマリンは現在地と移動場所にそれぞれに物の設置を必要とするけど、術なしで移動可能。移動魔法は単独でできるけど、高難易度魔法術なんだよね」


なるほど。

それなりに魔法技術がないとできないってわけか。

移動魔法を簡単にやってのけてしまう紅の魔女はやはり強いのだろうな。


「だから、頑張って歩こう。結構すぐだったと思えるはずだから」

「俺はお前がそう言って、楽だと思ったことは1度もないぞ」


ニトはケッと鼻で笑うと、そのまま歩き始める。

ったく、素直なのか、素直じゃないのか……。

ニトの返しにナイルが「でも、言うことを聞かなかったことはないよね」と呟くと、ニトはナイルの肩を叩く。

その様子がなんだか微笑ましく、サンディとともに一歩後ろで見ていると、叩きあっている2人の先に見たことのある姿の男がいた。


あれは……。


どこかで見たことがある。

鍛えられた筋肉があると分かる背中。

黒い肌を露出させた腕。

不気味なオーラを放つあの後ろ姿。

うちの目が捕らえたその男は巨人のように大きな体格をなし、短い黒い髪を持っていた。

また、彼の手には多くの鎖が束ねられおり、その鎖の先には子どもたちの首輪に繋がっている。


「どうしたの、アメリア??」


隣に立つサンディが顔を覗き込むように見てくるが、その顔を押しのける。

アイツは、アイツは。

うちはナイルとニトの間を抜け、男の方へ足を進めていく。

背後でうちを呼ぶ声が聞こえるが、知ったこっちゃない。

追いかけてくるうちに気づいたのか、後ろをちらりと目をよこしながら、男は歩く速度を上げ始める。

しかし、その男には奴隷の子どもたちを引き連れているため、全力ダッシュは難しい。

多くの人であふれる大通りを走り、迷いなく人の間を縫う。

うちは男の肩を右手で押さえると、男の足は止まった。


「おい、お前。その奴隷を何に使おうとしているんだ??」

「……」

「おい。答えろ」

「何って。奴隷に決まってんだろ。それ以外に何がある」

「じゃあ、なんでお前の持つ子どもたちの魔力は高いんだ??」


コイツが捕らえている子どもたちはそれなりに高い魔力を持っている。

それは彼らに近づく度にヒシヒシと感じた。

別に子ども単体で見れば、学園には同じような魔力を保有するやつはたくさんいる。

しかし、全員の魔力が高い。

男が奴隷としている全て子どもたちの魔力が。

うちの質問に男は吐き捨てるように答える。


「たまたまだろっ」

「お前からは黒いオーラを感じるんだが」


妖精の島で出会ったようなオーラを。

うちが怪しすぎる男に迫っていると、男は腰に装備していた小刀を手に取り、うちの方に振った。

うちのフードを切ると、男は「お前が首輪なんかつけているのが悪いんだぞ」と呟く。


「おい!! この女、珍しい奴隷だぞ!! ピンク髪だっ!!」

「なっ」


男がそう叫ぶと、大通りにいた人たちの視線がこちらに集まった。

あたりを見渡すとピンク髪の人を見ないのか、きらめいた瞳を向けられている。

うちが王女だということを知らないようだが、今はそんなことはどうでもいい。

正面を向き直すと誰もおらず、男の姿は遠くにあった。

捕らえてやろうとうちは男に真っすぐに突き進もうとするが、お金に目をくらませる人々に囲まれる。

結局むやみに手を出せないうちはその男を追いかけることはできなかった。

アイツは確かに何かを企んでいた。

なんだったのかは分からない。

男を見失ったうちは嫌な胸騒ぎが止まらなかった。

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