No.131 時の扉

「あれがセクエンツィア国か……」


斜め前には海上の先に地面が広がっている。

うちらは紅の魔女が用意していた船にウィンフィールド国の港から乗った。

その際、うちらは誰にも見られないようにするため、紅の魔女の家から魔女自身が作った魔水を体にかけ、移動した。

人目につかない港の端に船は止めてあり、うちらはすぐに乗り込み、海を渡っていた。

幸い、風は少なく海は船が大きく揺れるほど荒れていなかった。

そんな様子に快適な船旅かなと考えていたのだが……。


「う゛ぅ……気持ち悪い……」


左隣で船にもたれる者は青白い顔をしていた。

船酔いのせいか吐き気が絶えないサンディは苦しそうにしている。


「サンディ、お前船ダメだったのか??」

「うん……普段あまり乗らないもんだから……オェっ」

「無理すんなよ」


うちがサンディの背中を優しくさすっていると、うちの右に彼がやってきた。

ナイルは手すりを持つと、サンディの方を見る。


「彼……大丈夫??」

「まぁ、大丈夫だろ。あと少しだし。で、どうしたんだ??」

「いやー。ニトとカードゲームしていたんだけど、彼が少し寝るっていうから暇になっちゃって」

「で、おしゃべりしにきたと」

「そうだよ」


ナイルは楽しそうにこちらに顔を向ける。

おしゃべりしたいって暇な女子かよ。

まぁ、いいや。

隣のやつのひたすら吐きそうな声を聞くだけよりコイツと話す方がいいか。

何個か聞きたいこともあるし。


「お前さ……アイドル業の方はいいのかよ。ファンがかなりいるんだろ??」

「うん。今は少し休憩してるって報告してるから大丈夫。君の方こそ大丈夫なの?? 公爵家の娘が失踪したなら世間が騒ぎ始めるんじゃない??」


まぁ、確かに。


「……姉ちゃんたちもきっと大騒ぎしてるだろうな。でも、動けないし、うちにはどうすることもできない」

「ハハハ。じゃあ、仕事を頑張るしかないね」

「……そうだな」


そう呟きながら、徐々に見えてくるセクエンツィア国の街を目にする。

奥の方にはここからでもはっきりと見える大きな建物があった。

あれがきっと王城だろうな。


「なぁ、ババアは王城の地下室に行けって言ってたが、地下には何があるんだ??」

「さぁ、僕にも分からないけど……噂なら聞いたことがある」

「噂??」


ナイルは突然真剣な顔つきに変わった。

普通噂でそんな顔になるか??

と疑問に思いつつも、彼の話に耳を傾ける。


「あのセクエンツィア国の地下には時の扉というものが置いてあるんじゃないかっていう噂があるんだ」

「時の扉??」


なんだ、その面白そうなものは。


「その時の扉は名前の通り、扉内部に入ると時を移動できるらしい」

「あー、タイムマシーンみたいなものか??」

「何それ??」


魔法機械が発達するコイツらにはこの単語を知らないのか。


「いや、無視してくれ」


うちは話を進めろという風に手を振る。

ナイルは頷きそのまま話を続けた。


「その時の扉があるとされている地下室は王城にあるもんだから、内部の様子は国家機密になっているみたい。でも、過去の文献を調べてるとどうもあそこに魔王が一度だけ訪れているんだ」

「なにっ?? 魔王だって??」

「うん。魔王が封印される前の話になるんだけど、魔王はその時の扉を開き、未来に行って鍛えたらしい。本当かどうか怪しくはあるけど」


セクエンツィア国の王城の地下室。

そこに紅の魔女が行けと言っているのだから、何かあるに違いないとは思ったけどまさか魔王と時の扉タイムマシーンとは。

そのような噂が真実であるのならば、セクエンツィア国が自分のふもとに置き、地下室の内部を国家機密としている理由も頷ける。

だが、なぜそのようなところに行かないといけないのか……。

紅の魔女の考えが読めない。


「ババアが何を考えているかは知らんが、とりあえずうちらは地下室そこがどうなっているか確かめればいいんだな」

「そうだよ」


ナイルは遠くにそびえる王城に瞳を向けていた。


「僕らが知っても特に意味はないのだから」


そう呟いたナイルは「あ、あともう少しで着くね。ニトを起こしに行ってくる」と笑顔で部屋の奥に戻っていった。

うちはナイルの呟いた言葉にひっかかりを覚える。

地下室に行く意味がないはずがない。

紅の魔女ぐらいの強い魔導士であれば、地下室に行くことなんて容易なはず。

と紅の魔女の命令の意図を考えていると、船の動きはようやく止まった。

隣でうめいていたサンディは「やっと……ついた」と安堵の声を漏らす。

うちはそっと首輪に触れた。

まぁ、とりあえずこの首輪を外さないと紅の魔女の命令を効かないといけないのには変わりない。

とりあえず、この首輪をのけてやる。

うちはそう意気込むと、船酔いで体調がすぐれないサンディを支えながら船を降り、初めてセクエンツィア国の地を踏んだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る