No.124 Sandy

「な……」


リッカの兄貴が5年前にいなくなった……??

5年前。

それはちょうどうちと隣にいるこのムーンライト犬に会った時期と重なる。

でも、違う。

このサンディとリッカの兄貴が一緒??

そんなはずない。


「あなたとこの犬はいつであったのですか??」

「……5年前だ」

「何っ!?」


メガネのっぽの隣に腰を曲げた長老は声を上げる。

腰はピーンと真っすぐになっていた。


「……やはりサンディ君なのか」

「勝手に判断するなっ!! リッカの兄貴なはずがない」

「それは試してみないと分からないでしょう。じゃあ、サンディ君。君を元に戻しますよ」

「やめろっ。近づくなっ」


メガネのっぽがサンディに近づかないように構えると背中になにか当たる感触がした。

振り向くと感触の原因と予測されるサンディが真っすぐな橙色の目でこちらを見つめていた。

何かを訴えるような目で。


「サンディ……」


うちが呼ぶとサンディはうちの横を通り過ぎ、メガネのっぽの元へトコトコと歩いていく。

メガネの所に行くとサンディはうちをちらりと目をやると、背を向けた。


「やはり君はサンディ君だったのですね……」


メガネは茶色のコートのポケットから森林の色のような粉が入った小瓶を取り出し、蓋を開ける。


「サンディくん。お帰りなさい」


メガネは白い毛並みのサンディにエメラルド色の粉を垂らす。

その粉はチカチカと輝き、まるで妖精が持っていそうな綺麗な粉。

うちはその様子をじっと見つめていた。

粉がサンディに降りかかると光が周囲に広がり、サンディの姿が見えなくなっていく。

光が強く眩しいため、腕で目を隠す。

よくは見えなかったが、シルエットが徐々に変化していっていた。


「ただいま戻りました。先生」


光が徐々に収まり、目を開けれる程度になると腕を下ろす。

さっきまでムーンライト犬がいた場所にはうちよりずっと背の高いホワイトの髪の青年が立っていた。

ひょろりとした彼は背を向けているため、顔は見えない。

本当にサンディは人だったんだ……。

うちは幼少期からずっと過ごしていた犬が人、しかも男だったことに衝撃を受け、絶句していた。

池の中で泳ぐ鯉のごとく口をパクパクさせるだけ。

何も言えなかった。

彼はメガネやろうと長老に一例をすると、体をクルリと回転させ、うちの方に向く。

金のネックレスもともに彼の首元で揺れた。

そのネックレスのプレートには「Sandy」。

確かに彼はうちの『サンディ』だった。


「お初にお目にかかります」


白い服をまとった彼はうちに向かって礼をする。


「私はサンディ・V・セントシュタイン」


顔を上げると、リッカと同じ太陽のように明るいオレンジの瞳が見えた。


「助けていただき本当にありがとうございました、アメリア王女殿下」

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