No.123 メガネのっぽの言うことには

「アメリアさん!! アメリアさん!!」

「あっ……」


サンディの姿が見えなくなっても、頭の中の歯車はフリーズしていた。

リッカの声によってうちの歯車たちは動き出したのだが。

うちの意識は現実世界に戻ってくる。


「アメリアさん、広場の方に向かいましょ。あのワンちゃんはアメリアさんの大切なワンちゃんなのでしょう??」

「えっ??」


焦っているリッカはうちの腕を掴み、引っ張って走り出そうとする。


「あのワンちゃんのことを村の方々は勘違いをして、元の兄に戻そうとしているのです」


なんだとっ!?

リッカの引っ張りで前に出そうになっていた足に力を入れ止めると、階段を下りようとしていたリッカの体はぐいっと後ろに下がり、その反動でこちらを振り向く。


「お前の兄はシー族だし、自分で元に戻ることはできるはずだろ??」

「以前、シー族の者が変身で元に戻らないことがありました。みなさんはもしかしたらその時のことを思い出しているのかもしれません」

「……サンディアイツがお前の兄だとしてもどうやってもとに戻すんだ??」

「事例の時の方法で治すと思います。先ほど言ったように何度かありましたので」

「……」

「でも、あのワンちゃんがシー族でなかった場合、事例の時の方法がワンちゃんに悪影響を及ぼさないとは限らないのです。だから、早く広場に向かいましょ」


リッカの言葉でうちは愛犬サンディを守る?? ため、数段の階段を下り、リッカとともに村の中心部にある広場へと走り出した。




★★★★★★★★★★




「先生!! コイツ、サンディですよ!! あのガキですよ!!」

「サンディくん……??」


中心部からそんな声が聞こえる。

中心には綺麗な水が流れる噴水があり、建物がなく開かれている。

そんな広場に行くと、家の前にいたときよりも集まっている人数が増えていた。

噴水の前にはサンディ、長老、そして、丸メガネをかけた背高のっぽな男がいる。

背の高いやつは村人たちから「先生」と声をかけられていた。

きっとあれは医師なんだろうな。

うちはその男の職業を勝手に判断する。

そして、集まってきていた人々の間を縫ってサンディの下に歩いて行った。


「おい、うちの犬になにしてんだ」

「お主、誰じゃっ!!」


やっとうちの存在に気づいたのか長老は叫ぶ。

まっ、どうでもいいっか。

とりあえず長老はスルーする。


「君は……人間だね」


背高のっぽメガネはサンディの隣に立った瞬間、うちに声をかけてきた。

静かに地面に座っていたサンディは「くぅーん」と状況が理解できていないのか暇そうに鳴く。

うちはその頭をそっと撫でた。


「サンディから離れてくれるかい?? 彼はシー族なんだ。君の犬ではない」

「バカな。そんなのどこで判断できるんだよ。だいたい、コイツとうちは何年いたと思ってんだ」


思えば前世のことを思い出してすぐにサンディコイツと出逢った。

まさか、こんな長い付き合いになるとはあの頃は思ってもいなかったが、コイツとの出会いから何年も経っている。

長年一緒にいるサンディがシー族のはずがない。


コイツが小さなときに育てていたのだから……。


うちがそう呟くとメガネのっぽはこう話してきた。


「シー族のサンディ君は5年前にいなくなったんだ」

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