No.65 冷えた夜にメンヘラに出会う僕
普段通りじゃないアメリアが失踪したことは専属メイドティナによって即刻彼らに伝わった。
「これは……??」
共用のロビー付近にある個人用の応接室に呼び出されたフレイはティナからあるものを受け取る。
ティナから手渡された紙にはとてもきれいとは言えない文字が書かれてあった。
僕はその文章を声に出して読む。
「えーと、『私はフレイ王子に殺されるため自分の命を守るために逃げます』ってはぁ?」
「これってアメリア様が書いたものですか?」
「字が汚い……。姉さんじゃないでしょ?」
「……アメリア嬢がこんな字は書かない」
「『私』って……アメリア嬢らしくない」
「確かにアメリア様なら手紙であっても『うち』ですものね、お兄様」
エリカをはじめ、ルイ、ハオラン、ルース、クリスタはフレイが持つ紙切れを覗く。
クリスタは視線を紙からティナになおし、状況を確認する。
「窓は開けっ放しの状態で、ベッドの上にはこの紙切れが置いてあったのですか?」
「ええ」
「姉さんなら、あそこから飛び降りてもおかしくない……」
「確かに」
「アメリア嬢とは言え、そんなに遠くにはいないはず」
「あっ……さっきサンディの小屋の前通ったけれどサンディはいなかったよ」
そうするとみんなはがっと一斉にハオランに注目する。
ハオランは「へ?僕、なにかやらかした?」とつぶやき周囲をキョロキョロ。
さすがハオラン。
大事なことはサラリと後出し。
フレイは軽く笑いつつため息をつく。
「フレイさん、こんなところでダラダラしている暇ありませんよ」
「うん、そうだね。このままだと犠牲者が増えかねない」
すると、ずっと黙っていたエリカが口を開いた。
「ここは手分けして捜索しましょう。2時間捜索しても見つけられなかった場合は先生方に報告。アメリア様のことですので、大ごとにして自分のことで騒がれるのはとっても嫌がります。できるだけこの2時間で見つけましょう」
なんだか圧倒的なオーラを放つエリカに全員はコクリと頷く。
「そこで女子1人では危ないと思いますので」
ん?
エリカの表情から、
嫌な予感を感じるのだが……。
「私とクリスタは一緒に行動。男子はツーマンセルになることはないですよね、
エリカの口調はなぜか挑発気味で最近バチバチ関係にあるフレイは「ああ、当然」と返事。
そのまま、エリカはティナに視線を移す。
「ティナ様は…」
「私はルイ様に」
ティナはアメリアの弟ルイにつくことになり、そして、それぞれアメリアを探すため夜の学園を回り始めた。
はじめの1時間、僕らは学園の建物を捜索。
サンディとともにいなくなっており、屋根にいる可能性があったため、そこも確認したが人や犬の姿はなかった。
そこで僕らは学園の畑や音質、池、訓練場、体育館とそれぞれに分かれ探すことにした。
池の担当となったフレイは走って向かっていた。
アメリアはサンディと一緒にいない可能性はなくもないが、高確率で一緒に行動しているはず。
そうなるとアメリアのバリア魔法とサンディの脚力を使えば、学園を出るのはおろか、明日の朝中には国外に出ることも可能。
あの状態で国外に出られたら溜まったもんじゃない。
池にいないだろうと思いつつフレイはメンテナンスがしっかりされている板が組まれた八つ橋を歩いていると、釣りを行うための出っ張り部分に大きなシルエットが見えた。
そっとそっと足音を鳴らさないように歩いていると、シルエットの正体が分かった。
そこにいたは大型犬いや……、巨大犬のムーンライトのサンディとスヤスヤ眠るアメリアがいた。
シルクのネグリジェを着ているアメリアは寒いのかサンディに寄っている。
アメリアは若干微笑み安心しているように見えた。
なぜこんなところで……。
フレイはゆっくりと近づく。
すると、アメリアの瞼がパチッと開いた。
「うわあっ!!!」
フレイはアメリアの結構大きい叫び声にビクっと驚き後ろへ下がる。
その叫び声によってサンディも目を覚まし、フレイを見るなり警戒していた。
「ここまで来て……。私を殺しに来たんでしょう?!殺しに来たんでしょっ!?」
アメリアは愛犬サンディにぴったりと引っ付き、僕を睨む。
これはヤバい……。
メンヘラみたいになっている……。
本当にどうしたのだろう……。
刺激を与えることは良くないと思っているフレイはゆっくりアメリアの方へ進む。
「アメリア、僕は君を殺したりしない」
「うそね。あなたはエリカと婚約したくて、私を殺すんでしょ?そうでしょっ!?」
「はぁ?エリカ??」
涙ぐみながらもアメリアは必死に訴える。
なんであんなナイルファンの人と婚約しなきゃならないんだ?
もしかして……、
嫉妬してるの?
……。
僕は首を横に振り、気を取り直す。
「なんで、エリカと婚約しなきゃならないの?」
「あなたたち2人とも愛し合っていたじゃない」
アメリアは僕に指をさし堂々と答える。
その様子に思わず僕は溜息をもらした。
あの……アメリアさん?
いつもの僕ら見てた??
最近は僕とエリカさん、バチバチよ?
フレイはもう1歩前へ出る。
「僕はエリカさんのことなんて愛してないし、君は僕の婚約者だ」
仮のだけれど。
「本当にあの子を愛してないわけ?」
「うん」
「じゃあ、誓って。私を殺さないこと、エリカを愛していないことを」
アメリアはサンディの毛を掴んでいた手を離し、ゆっくりと僕に近づく。
若干手が震えていたようだが、さっきよりも落ち着いているようだった。
「うん、分かった。神に誓うよ」
僕は胸に十字を切る。
切り終わった瞬間、アメリアはこちらに向かって走ってくる。
へ?
そして、僕に勢いよく抱き着き、思わず僕は池ポチャしそうになったが持ちこたえた。
「私、生きれるのね」
アメリアはそう言うと、フレイを見上げニコッと笑う。
「良かった、私、生きれ……」
あれ?
元気になったかと思ったアメリアは興奮のあまり気を失う。
「おっと……」
フレイは倒れそうになったアメリアを手で支え、そっと抱き寄せる。
……。
この子本当にアメリア??
僕はそう思いつつ、また目を閉じたアメリアを横抱きにし学園に向かって歩き出す。
後ろには大人しくサンディがついて来ていた。
なんだか熱いな……。
こんなに夜は冷えているのに。
フレイは自分の頬が赤く染まっていることは学園に帰りハオランに言われて気づいたのだった。
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