No.64 月明かりと紙切れ

コンコン。

僕は扉を叩く。

放課後、授業を終えたフレイはアメリアの部屋に来ていた。

数秒後出てきたのはアメリアの専属メイド、ティナだった。

話を通しているため、ティナは「どうぞ」と言い、案内する。

連れてこられた先にはベッドの上で静かに本を読んでいるアメリアがいた。

アメリアはフレイに気づいたのか、ちらりとこちらを見る。


僕がここに来たのはアメリアのことが心配なのもあるし、当然おかしくなっているアメリアを元に戻すために来た。

けれど、1番の理由は申し訳ない、謝罪の意で来ていた。

他の人を愛しながらも簡単に婚約を結んだこと。

鬱陶しい令嬢たちがよらないように虫よけとして扱っていたこと。

彼女は婚約を了承して決まったことではあるが、元は庶民の彼女が王子の婚約者になることの重さを明確には想像はできていなかったはず。

僕もそうなんだけど。

それが今回の結果だと思った。

目を集めやすい王族の婚約者。

様々な人が注目し、時には海外の人からも見られることになる。

その中には決して良いとは言えない職に手を出している人もいる。

僕らはそのことを忘れていたし、アメリアが怪物並みに強いということもあって油断していた。

申し訳なさでいっぱいのフレイは頭を下げる。




「ごめん、アメリア。僕があの時一緒に……」


「うあぁっ!!フレイ!?フレイ王子!?いやだっ!!」




すると、アメリアは手元にあった枕や本をフレイに向かって投げだし、暴れる。




「ちょ、アメリア。落ち着い……」


「いやっ!!来ないでっ!!殺さないでっ!!あなたが私を殺すんだったら先にあなたを殺すっ!!」




アメリアはベッドから飛び降り、フレイに向かってずんずん歩き出す。

危機感を感じたフレイは走り、アメリアから逃げるように部屋を出る。

ドアを閉めると、部屋から「アメリア様、落ち着いてくださいっ!!」と叫ぶティナの声が聞こえた。


結構きついな……。

あんなにも拒絶されるって……。


短時間ではあったが疲れがどっと来てしまったフレイは溜息をつく。


それにしても「殺さないで」って。

僕がそんなことするはずがないのに。

なぜ彼女は突然そんなことを言い出したのだろう?


解決策を見つけることができなかったフレイはその疑問だけを持ち帰り自室に戻った。





★★★★★★★★★★





その日の夜、ティナは暴れに暴れまわったご主人がきちんと眠れているか様子を見に行った。

部屋は暗いが、月明かりがあったためある程度は見えていた。

風の音が聞こえ周囲を見渡していたティナは閉めていたはずの窓が開いていることに気づく。

今日の夜は冷えるだろうと思いつつ、窓をそっと閉める。

退出しようと後ろを振り向くと、ぐちゃぐちゃになった布団のみがベッドの上にあり、人間が眠っているようなシルエットはなかった。




「えっ!?」




ティナは急いでベッド頭元のライトを灯す。

明るくなったベッドをもう一度確認しても眠っているはずのアメリアはいなかった。

ティナはゆっくりと頭を窓の方へ向ける。


こんな夜中にまさか……??


ティナは誰もいないベッドに視線を戻すと、あるものが置いてあることに気づく。


??


ベッドの上には1つの紙きれが置いてありティナは文章を読む。

すると、それを手に持ち、はしたないと思いつつも走ってすぐさま部屋をでた。

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