No.66 カオスの中の王子様
「おはようございます、フレイ様」
朝から意外な人の甘い声が聞こえる。
教室がある棟の入り口で彼女に出会った僕は甘い声の主の彼女に片腕を取られ、腕を組まされた。
「お……おはよう、アメリア嬢」
僕がそう挨拶をすると、アメリアは満面の笑みを見せる。
まだ、元に戻っていないんだ……。
昨日のことだったからもう戻っていると思ったんだけど……。
このままだとこっちの調子が狂いそうだ。
それにしても、何だか雰囲気がアメリア王女と似ているような……。
「姉さん!!待ってよ」
声を聞くなり振り返ると、背後から走ってくるアメリアの義弟が見えた。
その後ろからルイの倍の速さで走ってくる少女も。
あー。嫌な予感。
「あーん!!!フレイ様!!」
ルイの後ろから猛烈ダッシュで向かってくるのは隣国のサイネリア国第2王女アゼリアだった。そう、僕の敵。
「おはようございます!フレイ様!!……ん?」
アゼリアは僕のところにくるなり腕を組んでいるアメリアに視線を向ける。
「その方はホワード家の」
「おはようございます、アゼリア王女様。はい、私はホワード家の長女アメリアでございます」
普段なら王女であるアゼリアに対しても構わず冷めた目で見るアメリアはまるで曇り一つない笑顔を見せていた。
「だ、誰ですの??」
さすがのアゼリアも別人のようなアメリアに驚いていた。
「アメリア、アメリア・ホワードでございます。さっ、フレイ様、教室に参りましょ」
ステータスはそのままのアメリアの力は強く、僕は引っ張られるままに歩く。
「待ってくださいませっ!!」
いつも以上に必死のアゼリアの声とともに左腕を反対方向に引っ張られる。
左腕を引っ張っていたのは案の定アゼリア。
勘弁してくれ……。
「私
「アゼリア様、フレイ様は私の婚約者。Are you okay??」
「アメリアさん、私はこれでも一国の王女ですの。分かっていらっしゃいますよね??」
「ちょ……2人とも」
「姉さん!!何してんの!!失礼でしょ、そんなことしたら!!てか、引っ付きすぎ!!!」
大声で言うルイのことはドスルーのアメリア。
ルイは完全に蚊帳の外にいるようだった。
そして、フレイは2人に左右に引っ張られている。
1人は隣国の王女、もう1人は自分の(仮)婚約者。
どうしたものかと考えていると「あれっ?」という僕の最近のライバル?の声が聞こえた。
エリカはカオスな状況を目にするなり、アメリアとフレイの組んだ腕をガシっと掴み引き離そうとする。
「おはようございます、アメリア様。おかしくなっているとはいえ、今日はどうされたのですか??いつもならこのクソ男のことをゴミを見るような目で見ていたじゃないですか??なんでそんな可愛い目をこのタラシに向けてるんですか??」
エリカは必死にアメリアに訴えるが、アメリアは彼女を睨んでいた。
ちょっと聞き捨てならない言葉が何個かあったけれど……。
まぁ、いい。
僕をこの状況から一旦解放してくれるのならエリカの失言は見逃そう。
さぁ、エリカ、この怪物並みの力を持つ婚約者を引き離してくれ。
と僕がエリカに希望を託した瞬間、アメリアはエリカを突き飛ばした。
「何べたべたと触っているのっ!?庶民のあなたが容易くフレイ様に触れないでっ!!」
あれっ??
ダジャレ??
あ、じゃなくて、アメリアさん?!
突き飛ばされ地面に崩れるように座るエリカに向かって、アメリアは怒鳴った。
「アメリア様……??」
驚きのあまりかエリカの瞳からは動揺が感じられ、動きは完全に停止していた。
さすがの僕もエリカには同情し、申し訳なさを感じる。
横を見れば、キツイ目をしたアメリアが腕をぎゅっと組んでいた。
アメリアの表情をまるでエリカを軽蔑しているようだった。
初めてかもしれない。
こんなに人を見下しているアメリア・ホワードを見るのは。
よく冷めた目で僕らを見ていることはあったけれど、なんだかんだその瞳の奥にはいつも温かいものがあった。
「大丈夫?」
すると、座り込んでいたエリカの背後から1人の人が近づいてきた。
「ええ、大丈夫ですよ……え?」
「え?」
フレイとエリカはその人の顔を見るなり思わずへんてこりんな声を出してしまう。
その人はハオランでも、ルースでも、クリスタでもなかった。
エリカはその人の手を取り立ち上がるが、どういう状況なのか全く頭が追い付ていないのか、目玉がぐるぐると回っている。
フレイもそれは同じだったが……。
「はぁーーーー??!!」
とても品があるとは言えない声が聞こえた。
その声はいつものアメリアのようだった。
隣を見ると、さっきの若干色気があった甘い声から打って変わって口を大きくあんぐりを開けているアメリアがいた。
拘束されていた腕もだんだん解放される。
良かった……これで……。
「えっ!?ニトっ!?」
アメリアは彼の名を
「ええ、そうです。僕はホワイトネメシア王国第2王子、ニト・ホワイトネメシアです」
彼はニコッとこちらに向かって笑う。
「どうもよろしく」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます