No.8 チョオォォォ――――プ

「ねぇ、叔母さん。このゲームしてみない??」




うちの研究室によく訪れる姪の声。




「おばさん呼びやめろ」

「じゃあーー、恵美莉ちゃん?」

「よし」

「マジ?? いいのかよぉ」


姪は高校生。

うちの年の離れた姉の子で、うちと12歳離れているが、よく研究室ここに訪れてはごろごろ。

何してんだか。


「恵莉香、お前、勉強はいいのか?? 夏休みの課題出ているじゃないか??」

「大丈夫―。最後の3日で終わるからー」


姪っ子、恵莉香は高2。来年は受験生だ。

全く、そろそろ将来のことを考えてほしいよ。

恵莉香はうちの心配をなんか知らず、ソファの上でゲームを続けている。


「それよりも、えみちゃん。このゲームやってよ。えみちゃんにぴったりだから」


うちは書類整理を中断して、呼び出してきた恵莉香の方へ行く。

まぁ、休憩として付き合ってやるか。

恵美莉は恵莉香のスマホ型ゲーム機の画面を覗く。


「なにがうちにぴったりだ。これ乙ゲーじゃねえか」

「えみちゃん、乙ゲーという概念を知ってるのっ??」

「バカ。知ってるわ。高校生の時やってたわ」

「えー!! ウソでしょ!? あの女元ヤンキー、えみちゃんがっ!? ありえなーい!!」

「ありえないならぴったりとか言うじゃないよ。てか、ヤンキーが乙ゲーやってて悪いかっ?! あとなんでお前、うちがヤンキーだったこと知ってんだよ」


恵莉香には教えた覚えないんだが。


「えー。そりゃ、ママからだよー」


やっぱか。

あの姉貴しかいないだろーよ。


「ママがえみちゃんみたいに過程がどうであれ、最終的に研究者まともな仕事につけたからえみちゃんは凄いのよ、でも、恵莉香はヤンキーにならないでねって言ってたよ」

「ディスられてんじゃねーか」

「そうだね。まぁ、ともかくやってみてよ。どうぞ独身の寂しさを埋めてください」

「うるせぇ」


まぁ、やるがな。

恵美莉は恵莉香の隣に座る。

うち自身、乙ゲーなんて高校生以来。しかも、今のとは大きく異なる乙ゲーだ。

プレイしようとする私の感情にはなんだかウキウキするようなものがあった。


「研究者が乙ゲーする様子初めて見たわ」

「別に研究者がプレイしてもいいじゃねーか」

「はいはい。あっ、ちなみにこのゲームの……」


徐々に恵莉香の声が遠ざかっていく。

視界も狭まり自分の意識が朦朧としていく。







恵莉香なんて言ったんだ……??


遂に何も見えず、うちは1人暗闇の世界にいた。







「アメリアっ!!」








また声が聞こえる。

恵莉香ではない男の声。


フレイ?

??

いや、違うな。

エド兄がいるな。

しかも、1人で泣きわめいている。

なんで、フレイと間違えたんだろ。


「あ゛あ~~。なんで、愛しのアメリアがこんなことになってんだよぉ~」


うるせぇな。

仕方ない、起きてやるか。

うちは重い瞼を開く。

始めはぼやけていたのだが、徐々に天井とエド兄の顔が見えた。


「兄貴、顔、近い」


エド兄はうちと0㎝もないであろうところまで顔を近づけていた。


「アメリアっ!! 起きたいのかいっ!! 良かったっ!! ほんとに良かった!!」


エド兄はあまりにも嬉しかったのか、万歳をしてジャンプもしていた。

はぁ……兄貴よ。

あなたは幼稚ですか。

まだ、頭がボヤっとするんだわ。

静かにしてほしい。


「兄貴、もう一回寝るわ」

「えーー」

「うるさい、おやすみ」


もう一度眠りについた。

さすがに兄貴であってもけが人が眠ってんだから邪魔はしないよな。

もう少しだけ、寝させて。




なぜか、疲れてるんだから。




眠っていると、心地よい風を感じた。

ふかふかのお布団を感じた。

甘いパンケーキの香りがした。

??

パンケーキだって?


お腹空いたっ!!

勢いよく起きると、自分の部屋にいつの間にか帰っていたことにやっと実感した。

自分で帰った記憶がないんだが……。

部屋にはティナがおり、ワゴンにホットケーキを用意して立って待っていた。


「おはようございます。アメリア様」

「……うちは毒のせいで眠っていたのか?? ティナ??」


意識があった時の記憶をたどりながら訪ねる。


「ええ、そうです」

「ふうん。てか、毒でやられていた主人が起きたのに妙に冷静だな」

「ふふっ、アメリア様は起きる前、夢の中で何かおっしゃっておられたようでしたから、そろそろ起きるだろうと予想しまして」

「夢の中で……?? あれは夢だったのか……」


エド兄がいつも以上にうるさかったのはそのせいか。


「それはそうとアメリア様。アメリア様の左手をご覧ください」

「はぁ??」


ティナに言われるまま、自分の左手を見ると手が繋がれていた。

フレイの手が。

小さな体のフレイは椅子に座ったままベットにもたれ眠っていた。


「っ!!」

「フレイ様はアメリア様が起きられるのをずっと見守っておられました。5日間もです。アメリア様は本来一昨日目を覚まされるご予定でしたが強力な毒だったらしく、それを心配なさったフレイ様はつい3時間ほど前までずっと起きて看病なさっておられました」

「……」

「アメリア様、フレイ様をそのままに…」

「ああ、分かった」


フレイの眠った幼い顔をじっと見つめる。

こんな幼いガキが徹夜なんてな。


なんか悪かったな。

フレイの頭を優しくそっと撫でた。



★★★★★★★★




「ん??」

「おはようございます」


目を覚ますと、目覚めたアメリアがいた。

すっかり痩せてとんでもない美人になったアメリアが。


「おはよう……って!!!」


僕は慌てて立ち上がった。


「すみません!! 姫君の寝室で眠るなんてっ!!」


思わずアメリアに背を向けてしまう。

びっくりした。

そんな失礼な態度を取ったにも関わらず、アメリアは僕に話しかけてくれた。


「大丈夫ですよ。それよりもフレイ様、本当にありがとうございました。お礼とは言ってもなんですが、一緒にお食事いたしませんか」

「あ、はい。僕もお腹が空いたところなので」


僕は少しこんなにも美しいアメリアに婚約してもらえるのかどうか心配になってしまった。

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