No.7 王女、急所狙い
「今日は陛下にお願いがあってきたのです」
フレイは非常に緊張していた。何といったって人生で初めてのことを行うのだから。
「アメリア王女と婚約してもよろしいですか?」
「ほぇ?」
国王はすっとんきょな声を出した。
驚くのも無理はない。
僕とアメリア王女と出会ったのは約1ヵ月前のこと。つい最近であり、その1ヶ月間でも会った回数は多くはない。そんな関係の僕らが婚約するとなれば、他国はなにか裏があるのではと無駄な警戒をされてやっかいである。
しかし、なぜ今婚約したいのか。
正直、誰にもとられたくないんだよね。
彼女と出会ったあのお茶会のとき、僕は彼女を少しだけ関係を持っていようとした
僕の父と彼女の父の仲がいいからね。
でも、実際会ってみると、とても幼くして偉業を成し遂げている人とは思えない食べっぷり。
気品も常識もない。いえば、ポンコツ王女。
僕は勘で彼女から離れるべきと察知し、近づかないようにした。
そうすると、周りとんでもない数の令嬢がやってきた。初めは対処しきれていたが、途中からはそうもいかなくなった。
そんな時、彼女が助けにきてくれた。
それで興味を持ったって?
違うよ。
部屋に案内され、僕らは少し話をした。
その時、はっきり僕に“凡人”だと言ってくれた。
忖度もなく、客観的に分析した答えを。
僕の周りには媚びへつらう
兄さんたちとは違うのに…。
ハッキリ断言する彼女はとても神々しく見えた。
僕はアメリアがしっかり僕という人間を見ていることがとても嬉しかった。
そして、彼女と一緒にいたい。
僕がこんなことあの王女に思うなんて想像もしなかったけれど。
そう思った僕はさっそくアメリアのところに訪れたのだが、いつも運動をしていて会うことができなかった。アメリアのメイドいわく痩せるため一生懸命走っているらしい。
努力。
王族という身分ながら、それを行うのは図太い精神を持っているものしかできない。
やはり、アメリアという人間は素晴らしい。
邪魔はしたくないが、彼女に会えるようにしたいと考え、婚約という選択にいたった。
婚約をすれば、容易く会え、彼女がもし運動や勉強を行っていても会える。また、もしアメリアが痩せた後、邪魔な敵がつきづらい。
まぁ、僕ってこういう計算高い人間です。知ってる。
「僕は第7王女 アメリア・トッカータ王女と婚約したいのです」
国王は頭がパニック状態であった。
1番貰い手がなさそうな(娘たち溺愛国王はそのままでもよいと思っている)娘が1番初めに婚約しそうだなんて思いもしなかった。
国王自身はは構わなかったのだが…。
「僕自身は婚約は全然構わないのだがね…、アメリア自身がどう考えるかがねぇ…」
「それは陛下の許可が下りたということと受け取ってよろしいですか?」
「ああ。しかし、なぜアメリアなのだい?」
僕は最低限のことを聞いた。
父親なんだから構わないだろう?
すると、フレイは微笑み答えた。
「とんでもなく素晴らしい人だからですよ」
「そうか」
国王はそれだけ返事をした。
「では、後程アメリア王女に正式に婚約の申し込みをします。よろしくお願いします」
そういうとフレイは下がっていった。
「よく分かっているじゃないか」
娘たち溺愛国王(特にアメリア)はフレイの答えにこう呟くのだった。
一方、自分に婚約の申し込みが来ているなんて思いもしないアメリアは…
「サンディっ!ガキっ!」
マジでピンチ状態にいました。
狙われていた2人(1人は動物だが)は捕らえられ、アメリアから離れていきます。
「ある程度、その怪力バカ王女様の相手をしたら帰ってこい」
「へい!兄貴」
怪力バカ王女ってなんだよっ!ってそんなことはどうでもいい!
あの2人を…。
2人を追いかけようとするが、海賊のおっさんどもが立ちふさがる。
クソっ。人数が多すぎて、2人を追うこともできない。
「おいっ!ガキ!目を覚ませっ!」
アメリアは必死に叫ぶが、少年は眠ったまま連れ去られた。
「ルースっ!」
遠くから誰かの声が聞こえる。いつも聞いているあの声が。
「ルースお兄様!お願い起きてっ!」
ルースが目を開けると、目の前には先に捕まっていた妹、クリスタがいた。
「お兄様っ!」
クリスタの目は涙で溢れていた。
「ごめんな、心配させちゃって」
「いえ、お兄様がご無事で良かったですわ」
少年ルースはあの丘の上で気絶させられてからの記憶がなかった。
王女様にあったことは覚えてるんだが…。
ルースは窓が1つもない部屋に閉じ込められていた。ドアは外から鍵がかかっており抜け出すことは不可能と思えた。部屋には妹しかおらず、両親の姿はなかった。
「クリスタ、父上と母上は?」
そう聞くと、クリスタは憂わし気な顔をした。
「お父様とお母さまは私たちとは別の部屋にいらっしゃるようで…」
「…。そうか…」
まだ、家族が全員生きているだけマシだ。これからどうなろうと。
「お兄様、私たちは奴隷にされてしまうのですか…?」
クリスタは震えた声で尋ねる。
ルースは「ああ」とは言えなかった。
確かに逃げ道もない絶体絶命のピンチ。この状況下で奴隷にされるのはクリスタも重々承知だが、家族全員離れ離れになると分かったら…。
ルースが黙り込んでいると、部屋の外から声が聞こえた。
「ああ~、この狼、麻酔やったのにまだピンピンしてやがるぜ。どうしようか」
「それなら、ガキのいる部屋に突っ込んどけばいいじゃないか?」
「そうだな」
そうすると、ドアが開き、王女様と一緒にいた狼が連れられてきた。
「おい、ガキども、狼と仲良くなー。食べられたときはドンマイ」
そういって、海賊の男は去っていった。
「クーン」
ルースが見る限り、狼はとても弱っていた。体も傷があり、麻酔をされて力が入らなさそうに見えた。
「お前…」
なのに、立とうとしていた。ドアに向かって歩こうとしていた。
アメリアは足止めしていた海賊の男どもを全て急所狙いで倒した。
しかし、サンディと少年がどこへ向かったか分からなくなっていた。
しゃあーね。脅すか。
アメリアは完全にヤンキーに戻っており、やることなすこと酷かった。
「おい、あのガキとわんこはどこに行った?」
アメリアはへばっているおっさんに聞いた。
「誰がいうか」
「いいのか、また急所をやるぞ。いいのか」
「いうもんか、イタタァ。頭を踏むな、王女だろっ」
「うるせぇ、いいからどこだ」
「いわねぇ」
「あーあ、もう。急所やっちゃおうかなぁ。とんでもなく痛いとこ。私もやられたことあるけどホント痛かった」
「王女なのにやられたことあるのかっ」
「まだその年なのにやられたことあるのかっ」
「うるせぇ、そこのおっさん2人」
「頭痛いっ!強くするなっ」
「言ってくれる?」
「言うわけねっ!痛いっ!痛いっ!」
「言うよね?」
「ああっ!分かったっ!言うから、許してくれっ!あと、そのヤバい目もやめてくれっ。ヒイィっ!怖いっ!」
アメリアの軽い拷問の末、おっさんは吐いてくれた。
「はー、なげーんだよ。時間食っちまったじゃねーか」
「王女さん、おめぇ1人で行くのか?」
おっさんは正気の沙汰とは思えないという顔をしていた。
「ああ。そうだが?」
「おめぇ、バケモンだぁ」
アメリアは一時だんまりすると、こう答えた。
「まぁ、でも、お前らが私の言うことを絶対聞いて、一緒に行くってのなら別だがな」
「それ絶対ついて来いってことだろ?抵抗してもどうせ連れて行くんだろ?おめぇは鬼だな」
「あーあ、話が分かるやつで良かった。さぁ、いくぞ」
「バカっ、待てよ。俺らこの状態だろ、そんなすぐには無理だぜ」
「あと数分で回復するはずだから、ついて来いよ」
と言うとアメリアは2人がいるというレグルス港へ向かった。
王城では、フレイは国王との謁見が済んだあと、廊下でアメリナに会った。
「こんにちは、アナ姉。いつも兄たちがお世話になってます」
「久しぶりだね。リアムくん、元気にしてる?」
「ええ、相変わらず。勉学に勤しんでおります」
「やっぱり?最近、遊んでくれないんだよねー。あっ、さっきこっそり聞いたよ。アメリアと婚約するんだって?」
「情報が速いですね。さすがです」
「えへ、ありがと。まぁ、よければなんだけど、私たちと夕食は食べないかしら?アメリアもいるし」
「いいですかっ!?では、ぜひっ!」
「お前ら、回復にどんだけ時間かかるんだよ。10分もたってるじゃないか。うちは5分で動けたよ」
アメリアは走る能力が亀並みなのを思い出し海賊の男どもを待っていたが、一向に来ないので帰ってみるとこのザマだった。
「化け物のてめぇと一緒にすんじゃねえ。ほら、立てたぞ。行けばいんだろ、行けば」
「うちを担いで走れよ、歩くんじゃなくて」
「はぁ?なんで、お前を担いで行かなきゃならねーんだ?」
「走るのは弱いんだよ、この体。早く、早くしろって」
「はいはい、分かりましたよ、王女様。なんなんだよ、この女」
「あ゛あ??」
「「「「ヒイィっ!!!!」」」」
もう6時になっていた。
この時間は夕食時間である。なのに、全員がそろってはいなかった。
フレイはトッカータ王国の王族と夕食をとるため、食堂にきて待っていたが、現れたのはアメリアを除く王族の人だった。
アメリア王女はどこへ?この王城内にはいると思うのだが…。
フレイがアメリアの心配をしていると、国王が口を開いた。
「ヒラリー、アメリアはどこにいるんだい?」
「父上、私も分かりませんが…、アナ姉なら分かるかと…」
「あたしも分からないわー。ティナなら分かると思うけど?」
「申し訳ございません、アメリア様は運動をするから付いてくるなと言われたきりお会いしてません」
「そっか。ねぇ、ミーシャ。さっきまで庭園にいたよね?アメリア見かけなかった?
「いえ?私だけでしたわ」
兵士やメイドたちにも聞いたが誰1人午後にアメリアを見かけたものはいなかった。
「うーん、どこに行ったんだろー?」
「運動するとしたら、庭園か兵士の訓練場しかいませんが」
「でも、その2つともいなかったぁ。なら、運動に飽きて図書館にいるとかぁ?」
「アメリア様は午前中図書館に行かれました」
ティナはラニーニャに答える。
「あっ!」
「アナ姉、どうしたんです?」
「なっ、なんでもないよっ」
ヒラリーはアメリナを疑わしそうに見つめる。
「そういや、アメリナ姉さん。最近静かですね」
「な、なにが?」
「姉さんの行動ですよ。あまり、外に行かれなくなったというか」
「そんなことないわよ、1日1回は行って…、ハッ!!」
アメリナは自分の口を押える。
「やっぱりですか。また、隠し通路作ってたんですね。まぁ、それはあとで説教をするとして、その隠し通路がどうアメリアと関係するんです?」
「あっ、その、アメリアに運動するなら外の方がいいかなと思って、隠し通路の場所を教えて…、それ以来アメリアが外で運動するようになって…」
「分かりました。要するに今、アメリアは外にいて、なんらかのトラブルに巻き込まれたのですね。はい、アーロン。兵士に準備させて。行くわよ」
「はい」
ヒラリーの部下の1人、アーロンはすぐに準備に取り掛かった。
「では、父上。私はアメリアを探してまいりますので、少々お待ちください」
「うん。気を付けるんだよ」
「はい」
ヒラリーが食堂を出ようとすると、フレイは椅子から立ち上がった。
「ヒラリー姉、僕も行きます」
「フレイ、君はゲストだ。危険があるかもしれないことさせる訳には…」
「僕はアメリアに婚約の申し込みをしたいと思っています。その婚約相手が危険にさらされているのに僕はじっとはしていられません」
ヒラリーはフレイの爆弾発言に一瞬思考回路が止まってしまったが、復旧し直しため息をついた。
「あぁ、分かった、付いてきたいのならついて来い。だが、お前の安全の保障はできんぞ」
「重々承知です」
そうして、ヒラリーとフレイはアメリアを探すため、街へと向かった。
アメリアはバルバロッサ海賊がいるレグルス港に来ていた。
2人がいるという建物は海が目の前にある海賊にはとっておきの場所にあった。
やはり、すぐ近くに船もあった。
「あの建物であってるんだな」
「そうだ。あそこに親分もいるはずだ」
「そんなこと敵に言っていいのか?」
「ここまでお前に付いてきて、逆に親分に味方ですよって言えるか?」
「無理だな。で、2階の建物だが、上にいるのか?下にいるのか?」
「地下だと思う。逃げ道がないからな」
「じゃあ、お前さぁ。あの船で『王女がここにいるぞー!』って叫んできて」
おっさんは顔をしかめる。
「おい、それ俺の首が飛んじまう。ここにいる時点で俺らがお前を逃したことになるからな」
「いいじゃん、それで」
「バカか」
「冗談だよ。叫んだあと、すぐあの船から離れるんだ。仕事はそれだけでいい」
「王女さんはどうすんだ」
「お前の叫びで結構な人数があっちにいくから、その間に地下室に向かう」
うちのことは親分?にも伝わっていると思うから、うちを追いかけるはず、たぶん。
「助け出した後、残りの奴らでガキと犬を出来るだけ遠くに逃がしてやってくれ。犬には王城に行けって言え。アイツ、人間の言葉を理解できるようだから」
「王女さんは逃げないのか?」
「親分倒してからにする」
「……」
「あと5分後に決行するぞ」
「はいはい」
アメリアは前世以来の戦いに備えていた。
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