第17話 アクセサリー
岩戸小の名女優『後田教諭』は、ある日、大学時代の友人が彼の奥さんになっていることを知って、とても驚いていた。キャンパス内でも1、2を争う美人で有名、同郷の友達として自慢にしたいほどの可愛い彼女が、人としても教員としてもあり得ないと思う人の奥さんになっていることが、大きな疑問だし、別の意味では納得してしまうことだと言っていた。
彼にとって、家族や友達は、アクセサリーのようなもので、その人がどうなのかではなく、その人の立場や見た目がどうなのかが重要なのである。職業とかスタイルとか美しさとか社会的認識や対人的比較の優位性こそが彼のメンタルを支えているようなところがある。なので、見た目が可愛い人には、積極的に声をかけた。欲しいと思ったものは必ず手に入れた。
奥さんもその一人で、後田教諭によれば、なぜあんなに可愛くて性格も良くて非の打ちどころのない彼女を射止めることができたのか、ライバルも多数いたはずだ。どうやって付き合うようになって結婚までこぎつけたのか。
ある日、夜に宴席のある教頭を車に乗せて岩戸小に入ってきた運転手を見て、後田教諭はびっくりしたらしい。
「なぜ希子ちゃんがいるの?」
車を見ると教頭がいつも乗ってくる車種。助手席から降りてきたのは教頭。いったい何?運転してるのが奥様?あれっ?どこかで見たことある顔だぞ。まさか!同級生の希子ちゃん?
「やあ、こんなに驚いたの何年ぶりだろう」
そう言って職員室に入ってきた後田教諭。
「何に驚いたのですか」
「今、私の同級生に久し振りに会ってさぁ。めちゃくちゃ美人で可愛い人なのよ。それが、教頭の奥さんになってた。なんでぇー」
「それ、今日知ったんですか?」
「そう。今、教頭の車を奥さんが運転して来てて、わー久しぶりって挨拶してきたところよ」
「教頭先生の奥様が、後田先生のお友達なのですか?」
「そう、大学時代に同じ科だったのよ」
「教頭先生の奥様はとても美人だっていう話ですよね」
「もー、そりゃあ、学部一の美人って言われてた人よ」
「へえ、そうなんだ。でも、そんな人がなぜ教頭先生の奥さんに?」
「そうやろう?だから、今、私、頭の中を整理してるんだけど、彼女は騙されてるとしか答えが出ないのよー」
「騙されてる、確かに」
「教頭の口のうまさにきっと騙されたんだわ」
「しつこく迫ったのでしょうね」
「そうさぁ、私たちに物事を進めたり確かめたりするときも妙に丁寧だったりしつこかったりするじゃない?あのやり方は想像できるね。」
「言葉の力、何が何でもという積極性、執着心みたいなもので手にしたいものは絶対獲得してきた感じがします」
「えーっ、でもショックー。彼女にあの旦那さんって、どう考えても不釣り合いだし気持ち悪い」
「そんなにすてきな方なのですか?」
「いい人よー、ホント可愛らしい人よ」
﨑田教頭は、身長は165センチメートルくらいのずんぐりとした体型で、顔は、歌手で俳優の尾藤イサオさんに似ていて、外見がすごくいいというわけではない。中身は言うに及ばない嫌われようだし、美人で可愛い人を奥様にできることが不思議でしょうがないということだった。
可愛い部下に手を出したという話もあるし、あの顔と性格でなぜ好みの女性を手中に収めることができるのだろうか。グイグイいくのだろうな。何らかの常套手段を備えているのだろう。
「奥様が希子ちゃんとは知りませんでした」
後田教諭が話題にすると、
「いやいや、皆様に会わせられるほどではなくて」
と謙遜する﨑田教頭。顔は、もっと妻のことを話題にしてくれと要求している。職員が、口々に美人な奥様だそうでと話を続けると、嬉しそうに照れたふりをして「いやいや」と否定してみせる。どうやってそんな美人妻を得られたのかと誰かが聞けば、お義父さまに見初められたみたいなことを口にした。出た!外濠から埋めたのか。権力者に尻尾を振って取り入る姿が目に浮かぶ。
しかし、後田教諭の同級生からの情報では、学生時代アイドルでみんなのマドンナ的存在だった希子ちゃんは、結婚してD Vに遭っているという話があった。人を物として扱う一面を持つ教頭なら、手にした奥さんを意のままに操って、暴力にものを言わせて一家の主人ぶるのも無くはない。
職員への言動にも危険で横暴な実践があっているのだから、奥様に対してもきつい言葉や態度があることは十分考えられる。
彼にとって大事なのは、地位や名誉。人をアクセサリーとして利用するところを考えても、奥様の存在はキラキラと輝く宝石であり、完全なる所有物なのだと思う。
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