第3話 マジックアイテムは三つある

 ディルクは故郷・バーハイツ村を出てから、今は亡き魔法王国・プリエールで修業を積んだ。場所は王都・ハーデペウス。魔導師を志す者たちは、皆ハーデペウスに集ってその技を磨き、修練を積んだとされている。今となっては魔法の練習なんて、ゲテモノ料理を作ったり、占いをしてみたり、という風にしか考えられないが、ディルクを含むこの時代の人々は、精霊の力を頼りに所謂「魔法」を本当に使用していた。こういうのってちょっとだけ憧れる、というひどく滑稽で無知蒙昧で馬鹿な話を誰かが僕に言ってた気がするけど、誰かは忘れた。ここで名前を出すにはあまりに身分が高い人だったような気がする。

 しかし、バーハイツ村から南のハーペデウスまでの距離を考えると、宿を取りながら歩くとして一ヶ月はかかる道のりとなる。当然ディルクも宿に泊まっただろうし、そのためにはやはり金が必要になってくる。しかしこれまでの資料を読み解いていくと、彼の実家にはとてもそれだけの経済力は無い。何せ患者が全く来ない薬屋なのだから。と、ここで興味深い資料がある。これはバーハイツ村から北へ三キロ行ったところにあるカプロ港の商人の手記である。この手紙は商人が仲間たちに送ったものなのだが、それがこちら。


 今日、うちの店にやってきた魔術師の親子が、とんでもない珍品を次々と店に持

 ち寄って「これを買って欲しい」と言ってきた。突然の事だったがあまりに珍し

 く高価な品々を前に、とうとう店にあるほとんどの金を使ってそれを購入してし

 まった。(略)

 (ベーグル=ダルマ―『商功記』より)


 この「魔術師の親子」というのが、ディルク、シュターデン親子であったので

はないかと僕は思っている。「とんでもない珍品」とは、おそらくグリューネヴ

ァルト家に代々伝わる家宝や、貴重なマジックアイテム等の売買にやって来たん

だろう。父・シュターデンはそれだけの覚悟を持って息子・ディルクを送り出す

資金を調達したのだ。ただし商人ベーグルの言う「とんでもない珍品」がどう

いうものなのかはわからない。一度お目にかかりたいものだけど、今の世の中じ

ゃカルト的な物と見なされるだろうし、もしかしたら既に帝国によって処分され

ているかもしれない。

 ちなみにベーグルは魔法禁制となった後も商売を続け、その店は現在もカプロ港で商いをやっている。そこにも僕は行った。バーハイツ村へ行った日の暮に。

海はオレンジの夕陽を飲み込み、宵が来ようとしていた。振り向くと山々は、炎色に揺れていた。カプロはそこそこに栄えていて、大小様々な船が港に停泊し、ほとんどの建物からは暖かい灯りがガラス越しに見えた。潮風からは、外の国の薫がする。そして僕がその時泊まった宿が、かつてベーグルが経営していた店を改装したHotel Dalmarという宿だった。部屋は広いし、サービスもしっかりしているし、中々良いホテルだったよ。旅館には魔法時代の資料館等もあったが、当然それを称えるようなものは無かった。

 ふと廊下から夜の庭を見ると、ランプに照らされて黄色い煉瓦で造った小さな倉庫が見えた。業務員に尋ねると「ベーグル氏が帝国の偉い方からいただいた品々が保管されているそうです」と教えてくれた。またベーグルが当主だった時から、代々「決して倉庫の中を覗いてはいけない、それは帝国への不義を意味する」と言い伝えられているらしい。窓も何もなく公開もされていないから、当然僕は倉の中を知らない。でもあそこにディルク運命の「珍品」があるような、そんな気がした。

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