第20話占いの館

 入り口に立っていた仮面の男に誘導され、俺達はぶ厚いカーテンを潜り抜ける。


 中に入って初めて分かる。そこは同じようなカーテンで仕切られていた部屋だった。正面だけ、カーテンがめくれるようになっている。だが、そこをくぐりぬけても、また同じカーテンで仕切られた部屋に出た。目の前には、周囲には、同じカーテンで覆われている。


 その場所は、真っ暗ではないが、明るくもない。そこが先へ進む道だとわかるように、正面のカーテンにはかすかに発光した文字が浮かんでいた。


 重くぶ厚いカーテンをめくるたびに、同じような景色をみる。だが、それは何か必要な事なのかもしれない。というか、そうしなければ先に進めない。左右には壁があるのだろう。一方通行の道に、カーテンの関所あるようなものだ。いや、左にはおそらく同じ部屋があるだろう。


 ここから出て来た連中は、そっちから出てきていたのだから――。


 ただ、さっき待っていた廊下のようなところにあった風も、ここまでは届いていない。


 だからだろう。奥に行くたびに蒸し暑く感じるこの場所は、まるでカーテンの鳥居を潜り抜けていくような感覚だった。


 ――ん!? なぜ今、鳥居と感じたのだろう? 最初は関所と感じたのに……。


 ふと湧いて出た疑問は、瞬時に俺の中にある答えを探し当てていた。


 そう思う理由はただ一つ。奥に行くたびに感じるこの香りのせいだろう。だんだん強くなってくるそれは、どこか神秘的な感じにとらえ始めている。


 全く嗅いだことのない匂い。だが、なぜか夢見心地にも思えてしまう。


 ――もしかして、怪しい煙か!? 


 そう考えてみたものの、ここから出て来た連中にそんな感じはなかった。


 そして、いくつか同じ部屋を通り過ぎすぎていくうちに、俺は考えはじめていた。もしかしてこれは、『胎内くぐり』のようなものなのかと。


 ――いや、そんなわけはないだろう。


 だが、その考えは一瞬でなくなり消え去る。あれは魂の穢れを祓う儀式的なものだったはず。少なくともここはそんな神聖な場所じゃない。


 そして、俺達はたどり着く。目当てと思しきその部屋に。


 そこはもう、怪しさが充満しているような場所だった。蝋燭の炎だけがある薄暗い部屋の中には、さっきから香っていたよりもはるかに強い、独特の香りで満ちていた。


 香か何かをたいているのかもしれない。漂う香りと幻想的な光。


 それが神秘的な空間を形作っている。

 

「さあ、そこに座りなさい」


 正面にいる占い師が、俺に向けて指示してきた。気が付くと、若菜ちゃんはすでにそこに座っている。


 ――なんだ? ひょっとして催眠か何かなのか?


 でも、若菜ちゃんにその気配はない。ただ、何故か抗えないような気配が、その占い師からは漂ってくる。


「さあ……」


 言われるがままに、席に着く。神秘的な空間には不似合いな、何の変哲もない木の椅子に。


「では、聞こう。そなたらの関係は?」


 ――なんだこれ? いったい何の占いだ?


 そもそも占いに俺たちの関係とか関係ないんじゃないのか?


 俺がそう思っている間に、若菜ちゃんの口から思いもかけない言葉が飛び出す。


 驚天動地の発言に、思わず若菜ちゃんの顔を見てしまう。


 だが、そこにあるのは若菜ちゃんの横顔。しかも、その横顔にあるのは、まさしく真剣に占い師を見つめる瞳だった。


「なるほど、夫婦かい……。じゃあ占いを始めようかね」

「いや、おかしいだろ? アンタもそれで納得するのか!?」


 とんでもない発言を、そのまま受け入れ、何かを占おうとする占い師。


 そのとんでもない行動に、思わず俺は立ち上がってそう言わざるを得なかった。

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