第19話占いと尋問と

 結局、その後は俺の話が続いていた。というよりも、話題の中心は森下さんで、話しというよりも、それは質問と言った方があっている気もしてきた。


 少し話題を変えても、結局そこから離れなかった。


「おじ様、その森下さんは可愛い感じの方ですか? きれいな感じの方ですか?」


 それが最初の質問だった。そこから、会議で森下さんがクッキーを焼いてきた話になると――。


「おじ様、その森下さんは、どんな感じのクッキーを焼かれたんですか?」


 という質問になり、そもそも森下さんが煎れるお茶は、『誰もが絶品だと思っている』という話しになると――。


「おじ様、その森下さんのお茶は、どこがどう美味しいのですか?」


 という感じで質問された。


「おじ様、森下さんという方の――」

「おじ様、森下さんという方は――」


 少しエピソードを語ると、森下さんの質問がもれなくついて来る。全く森下さんとは関係ない話をしていても、『その時の森下さんはどうだったか』と聞かれる始末。


 それほど森下さんの事を気にかけているわけじゃないけど、改めてこうして話してみると、俺のまわりには絶えず森下さんが存在していた。


 ――まあ、目をかけている部下だから当然と言えば、当然か……。


 だが、そんな俺の中での新たな発見をよそに、若菜ちゃんの質問は続く。

 それについて、的確に答えられないと、より深く質問がやってきた。すでに、俺の腕にしがみついていることは無く、むしろ腕組みをして俺を見上げている。


 ――あれ? 何か怒ってる?

 

 その瞳は、俺の中にある森下さん像を睨んでいるかのような、少し怖い感じのモノだった。


 いや、若菜ちゃん自体は微笑を崩していない。


 だが、その笑顔の中に何かがある。何かこう、表現できない圧力か何かだ。これは……、そう覚えがある。俺の誕生日に、『早く帰る』と約束して家を出たのに、同僚のミスをカバーするために帰れなかった時に向けられた目だ。あの日は結局、次の日の夜になってしまった。


 冷蔵庫には、豪華な食事がそのままラップに包まれていたっけ……。


 ――ちょっと勘弁してもらいたい。


 何となくそう思っていると、いつの間にかあの紫のカーテンの所にやってきていた。


「やっぱり、占いだったのか」


 その立札を見てそう呟く。それは、これ以上の追及はやめてほしいという俺の願望。


 そして、その気持ちは天に通じ、若菜ちゃんは俺の言葉に応えてきた。


「はい、おじ様。ここの占いはよく当たるんですよ」

「で、ここからどうするの?」

「ふふっ、行きましょう、おじ様」


 意味ありげな笑みを浮かべる若菜ちゃん。その雰囲気はこの場の雰囲気によく似ている。


 いや、それ以上なのかもしれない。それほどミステリアスな雰囲気を、若菜ちゃんはその全身から漂わせていた。

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