EP.31 監禁犯の想いは決壊寸前


 ついに、ってしまった……


 どうしよう……


 顔のによによと心臓のバクバクが止まらない。


 苦節十七年。想いを全霊で伝え続けて、でも伝わらなくて。

なんとなく流されるままに甘えさせてくれるみっちゃんの優しさには感謝してるし、いい加減わかって欲しいもどかしさもあった。そして――


 ってしまった……


 手元のスマホには繋がれたまま呆れ顔で微笑むみっちゃんが映っている。


「えへへ……」


 みっちゃんを、監禁してしまった。


 前から少し気になっていたの。お母さん達のあの言葉。

 『ずっーと一緒にいたくて、捕まえちゃおう』って……


 捕まえ、ちゃった……


 よくないよね?やっぱダメ?犯罪?でも、捕まえたのは自宅だし……

 みっちゃんも遊びの範疇って思ってくれてるみたい。

 でも、私がその気になれば、みっちゃんは一生……


「ダメダメ!さすがにダメ!」


 そんなの、犯罪じゃん!?


 私はただ、みっちゃんが他の女の子と話してるのを見て、もやっとしちゃって、ぐらっとしちゃって、つい……


 でも、監禁した今だからわかる。監禁されると、人は為す術がないってこと。


 私がご飯を持っていかないとお腹が空いちゃうし、抱き着き放題、頬ずりし放題。

 みっちゃんはあーだこーだ言って抵抗するけど、いつだってみっちゃんが本気で抵抗したことなんてないのは知ってるよ?


「ふふ、好き……」


 どうしよう。顔のによによが止まらない。


 ダメだって、わかってるのに。でも……これから、ずっと一緒なんだよね?

 そう思うと、解放する気がどんどん小さくなって、よくないのはわかってる。

 でも、今は幸い夏休みだ。もう少し、もう少しだけ……


      ◇


 そうやって、数日が過ぎた。


 私はいつものように手作りの朝ご飯を持って地下室におりる。


「おはよう、咲愛也さあや


「おはよう」


「お。今日はオムレツか?」


「うん……」


(…………)


 みっちゃんの適応力は、本当にハイスペック過ぎて恐ろしい。

 地下室での生活にものの二日で適応し、私が朝ご飯を持ってくる頃には、いつも着替えて待っているようになっていた。


 そういうこともあって、私はますます引っ込みがつかなくなっている。


「ケチャップでハートって……メイドさんか……?」


 ジト目でスプーンを手にするみっちゃん。私はそれをサッと取り上げてオムレツを掬い上げる。うん。ふわとろオムレツ。今日も出来ばえは完璧だ。


「え~?ダメ?愛情たっぷりって感じでいいじゃん?はい、あーん」


「――ん。……うまっ」


「~~~~っ!!」


(はぁ~~……これだから、これだから……!)



 監禁やめらんないんだよねぇ!!



 みっちゃんの適応力は圧倒的だった。


 『あーん』しないとご飯が食べられないことを一夜目にして悟り、観念して、何の違和感もなくご飯を私から受け取る。


 次はまだか?という視線。


「えへ……えへへ……美味しい?」


「うん。咲愛也、やっぱり料理うまかったんだな?」


「えへへ……毎日、食べさせてあげるね!」


 ずっと、ずっと……!


「いや、いい加減自分で食べさせてくれると――」


「食べさせてあげるね!」


 私はスプーンをおもむろに突っ込んだ。


「むぐ……」


 大人しくそれを咀嚼するみっちゃん。やっぱ、カッコ可愛い♡なんて……



 私は、みっちゃんの要求度が日に日に下がっていることを知っていた。

 はじめの頃は『出してくれ』。

 次に『一緒に寝るのはちょっと』『自分でできるから』。

 最近じゃあ、『食べるのくらい自分でやる』『寝るときに抱き着くのはやめてくれ』までに要求が下がってきた。

 つまり、今の私はナチュラルにみっちゃんと一緒に寝ているというわけだ。


 こんな生活、楽しくてやめられるわけがない。


 これが、監禁犯の心理か……


 まさか自分に、こんな欲望が潜んでいたなんて。


 よくない、よくないとは思いつつ、自分がどうしようもないくらいに溺れていくのがわかる。


 なのに、みっちゃんはツレない。結局今になっても全然手を出してこない。

 なんでかなぁ?誘い受けはムーブじゃないの?

 もう、私は恥も外聞もなく襲い掛かるしかないの?


(…………)


 なんか、それはそれでどうなんだろう?

 せっかく幼馴染としてここまで仲良くしてきたっていうのに。

 ここで踏み外せば、もうそんな関係に戻れない気がする。

 それに、監禁して襲い掛かるって……猥褻目的みたいじゃん?


「――っ!?」


 そう思うと、急に顔が熱くなった。


(わ、私は……!そんなつもりじゃ……!)


 そ、そんなふしだらな子じゃないもん!


 ちらっ。


「……?」


 美味しそうにオムレツを食べるみっちゃんと目が合う。


(あ。口の端にケチャップが……)



 ――舐めたいな……



「……っ!?ダメダメダメ!」


「咲愛也?どうした?」


「えっ!あ。なんでも!なんでもないよ!」


「?」


「はい!もう一口どうぞ!」


「……むぐ!」


「あ。ごめん。雑になっちゃった」


「ん。」


 咀嚼しながら、みっちゃんは目線だけで訴えてくる。

 『丁寧に頼む』って……

 食べさせられることが既に前提となった、堕ちに堕ちまくったレベルの要求。


 それに、なんだかんだいって強引にキスしても許してはくれるんだよね……一応『やめろって』とは言われるんだけど、それで関係が疎遠になるとかは無かった。


 今更、ちょっとケチャップ舐めるくらい……


 でも、キスはしても、舌を入れたことはない。

 もし口の端をぺろぺろしたら、そのまま……


 ――ハッ……


 うかうかしてたら、みっちゃんはオムレツを平らげてハンカチで口元を拭いていた。


「ん。ごちそうさま。美味しかった」


「あああああ!」


 食べ、終わっちゃったぁ……!


 いやいや!ここは『ぺろぺろ未遂』で済んだことを喜ぶところでしょう、私!?


「どうしようううう!」


「ちょ、咲愛也?」


 もう、私の感情と欲望は渦を巻いて堤防決壊しかねない!


(こんな、こんな……!)


 このまま監禁を続けるなんて!いつか、いつかは……!


 ――私が手を出しちゃう!


「それはダメぇ!」


「あ、おい咲愛也!」


「片付けしてきますっ!!」


 私は空になった器を持って颯爽と立ち去った。逃げるように。振り返らずに。

 その背に、みっちゃんが声をかける。


「朝ご飯、ありがとう。今日も美味かった」


「~~~~っ!」


 私がみっちゃんからはっきりと自覚を持って逃げたのは、この日が初めてだった。





※こんばんわ。いつも読んでくださる方、フォローを続けてくださる皆さま、ありがとうございます!皆様の応援のおかげで、いまでもモチベを保って書き続けることができます。今日は、新作のお知らせと宣伝があって参りました。

 現在、カクヨムコンに2作品を連載で出す予定です。もしご興味があればよろしくお願い致します!結局予告と全然違うものになってしまってすみません汗


ひとつはラブコメです。

【恋人がシャッフルされるこの世界で】

https://kakuyomu.jp/works/1177354054892573045

政府公認の『恋人斡旋法』の名のもとに、恋人があてがわれてシャッフルされる世界でラブコメを繰り広げる少年少女の、もじもじハラハラ青春モノです。こっちは明るい話の予定!ハッピーエンドはお約束します。どういう収束をするかはともかく。


もうひとつは初挑戦のビターな話。

【断頭台の守り人】

https://kakuyomu.jp/works/1177354054892592024

歴史モノと恋愛の要素(?)な泣ける物語がテーマです。

処刑人一族に生まれた主人公が、愛しい人を手にかけた日に見知らぬ少女を拾い、

命と人の想いに寄り添いながら日々を送る。

そんな悲しいようなあたたかいようなお話にできたらと思っています。

断頭台と処刑人は趣味なので。こっちは趣味寄りの作品です。はい。趣味です。


 コメント、レビュー、なんでも嬉しいです!お待ちしております!

 新作を出すと、いつもこれでいいのかわからなくて困ってしまって……

 読んだ方は是非、作者を助けると思って☆でも一言でも下さると嬉しいです!

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美人双子に愛され過ぎて、気づいたら監禁されていた 南川 佐久 @saku-higashinimori

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