第54話 監禁犯と幼女
それからしばらく、晴れの日が続いた。
「どうしてだ……こんなに願っているのに……」
「神は死んだ」
俺と咲夜はそろって、ピカピカな日差しの照り付ける窓際を眺める。
そこには無残にもカラッカラに干からびた『逆さてるてる坊主』の大群――いや、これだとつるし首になった屍だ。
「ティッシュって、干からびるんだな……」
「鼻セレブを誤って使ったのが間違いだったね」
「夏の日差しが憎い……台風はまだか……?」
「それじゃあ危なくて出られないよ……」
「上陸しなくていい。ちょっと前線を活発化させるだけでいいから。ほんと、ちょっとだけ。ちょっとだけでいいから」
「先っぽだけ?」
「朝から下ネタはやめろよ……」
「哲也君なら、その……先っぽ以外もいいよ?」
「だからやめろって」
「できれば奥まで……たくさん……ふふ……」
「やめんかいっ!ちょっと咲月さーん?お宅のお姉さんがぁー!」
「あっ、やめて!咲月呼ばないで!咲月下ネタ嫌いなの!冗談だってば!あっ、冗談じゃないけど!」
(そうなのか?
って。今はそんなんじゃなくて……
咲夜にジト目を向けると、しょんぼりとした表情と目が合う。
朝からしょうもない下ネタを口走ったことを反省して――などいなかった。
ぺしっ!
「あう!」
俺の太腿の内側をさするその手を払い落とす。
「朝からダメな子だな!」
「う……叩かれちゃった……えへ……」
(ほんとうに、ダメな子だな……)
「「はぁ…………」」
ふたりしてため息をついていると、背後のリビングから元気な声が。
「やぁーだー!お外出るのぉー!」
「だーめよ!ミーナちゃんは隠れてないといけないんだから!」
「なんでー!」
「それは『彼』が――んんっ、とにかく!なんでもよ!」
「さつきのケチー!」
「ケチじゃない!もー!ふたりからも何か言ってよ!私これからバイトなのに、玄関までくっついて来る!」
その声に、再び揃ってため息を吐く。
「はぁ……ミーナ、いい子だからこっちおいで。さくやと遊ぼ?今日のメニューはにーにとイチャイチャマッサージ……」
「や!お外出るの!」
「はぁ……ミーナちゃん、にーにがおやつ作ってあげるから、それで許して?」
「や!」
即答された。俺のおやつに人権なし。
(う……地味にショックだ……)
「あーあ!ミーナが『や!』って言うから哲也君泣いちゃったじゃん!」
(まだ泣いてないけど……うん。泣きそうではある)
すると、ミーナちゃんはわたわたと駆け寄ってきた。
「にーに、ごめんね?」
こっくりと首を傾げる、心配そうな瞳。
「は~、ミーナちゃんは心まで天使か……!咲夜とは大違いだな!」
「何それぇ!」
「だまらっしゃい!この
「好きでしょお!?
(そりゃ、まんざらでもないけど。好きだと豪語すんのもな……)
「……そーでもないわ!」
「真っ向否定しない!クロだ!こいつクロだぞ!悪魔に魂を売った!魔女裁判にかけろ!」
「きゃははは!かけろ~!」
「やめろ!しがみつくな!俺は魔女じゃない!」
「あーもう、三人とも何やってるのよ?私バイト行くからね?夕方から飲み会があるけど、サークルの付き合いみたいなものだし、九時までには帰るから!じゃ、よろしくね!」
「「「は~い」」」
俺達は咲月を見送ってリビングに戻り、三人してごろつく。
俺はミーナちゃんを膝に乗せてアニメを鑑賞。
ミーナちゃんは俺の手からソーダバーを強奪してちろちろ舐めている。
すると、スマホを弄っていた咲夜が声を上げた。
「あ。これ……」
「ん?どした?」
「いや、知り合いに頼んでた葛西臨海公園の観測画像なんだけど……」
「観測画像?……って、何者だよそいつ?」
「えっと、病院で世話になった人で、
差し出されたスマホを覗き込むと、連日午前九時と午後六時にベンチを訪れる金髪の美女が映っている。スタイリッシュなスーツ姿に身を包み、いかにもバリキャリといった風貌だが、その挙動はおろおろとしてどこか落ち着かない様子だ。
「これって……」
「うん。ひょっとして、ママなんじゃ……?」
――パアンッ!
咲夜と俺は思わずハイタッチ。
「限りなくそうだろう!?」
「だよねだよね!?毎日仕事前と終わり、決まってこの場所を訪れて何かを探してるみたいなの!何かっていうか……『誰か』だよね!?」
「典ちゃんグッジョブ過ぎるだろ!?」
「ほんと!今度何かお礼しなくちゃね!」
「ん~?さくや、にーに、楽しいの?ミーナもまぜて?」
「おお、ミーナちゃ――」
喜び勇んだ俺の口を咲夜が塞ぐ。そして、人差し指を口元に充てた。
「まだ決まったわけじゃないから……」
「そ、そうだな……」
「?」
「さ、今日はにーに達と遊ぼう!何がいいかな?」
きょとんとするミーナちゃんを抱き上げ、俺達は目いっぱい遊ぶことにした。
「わ~!遊ぼう遊ぼう~!」
元気いっぱいに笑うミーナちゃんの表情が眩しくて、少し悲しい。
だって、ひょっとするともう少しでこの笑顔とはお別れしないといけなくなるかもしれないから……
※『
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