第45話 幼女とお出かけ


「「はぁんっ――!かっわいいい……!」」


 俺と咲夜は朝っぱらから揃ってハモる。だって仕方ないだろ?俺達の目の前には今、本物の『アリス』がいるんだから。

 自慢の金髪をふわっとさせ、白いエプロンのついた淡い水色のワンピースを得意げに翻すと、ドヤ顔で微笑む。


「んふふ。ミーナかわい?」

「「可愛い~!世界一~!」」

「ふふ~」


 おめかしを褒められて大層ご機嫌な、可愛い可愛い俺達の『アリス』。


「咲月!今世紀最大のグッジョブだよ!」

「別に、ドンキで買った衣装をちょっとお洒落に改造しただけよ?それに、今世紀最大のグッジョブは哲也君ゲットでしょ?」

「そうだった!」


 咲夜は思い出したように俺に頬ずりをする。咲夜にしては珍しい外出用のTシャツは、胸周りのサイズが合ってないのかパツパツで、身体をくっつけられると直に感触がクる。


(ちょ……色気とは無縁のTシャツ着てんのに、この威力……)


 正直、コスプレでもしたらどうなってしまうのかと気が遠くなる。


「咲夜がTシャツなんて珍しいな?」


 尋ねると、咲夜はくるりと機嫌よさそうに身を翻し、咲月の肩を抱く。


「じゃーん!今日は咲月とおそろいコーデなのです!」

「ふふ、たまにはいいかなと思って……」


 見ると、ふたりの『対遊園地用お出かけ装備』は見た目にも愛らしい双子コーデだった。

 咲夜は黒、咲月は白のキャップを被り、夏らしい柄のお揃いのTシャツに、デニムのショートパンツというボーイッシュなスタイル。咲月はショートパンツをよく履くが、あれは普段使いでは見たことのない、色がほんのり濃いものみたいだ。

 ちなみに、ショルダーバッグの紐が谷間に食い込んで『パイスラッシュ』状態になっているのは指摘した方がいいんだろうか?


(咲夜は言うまでもないけど、こうして見ると咲月もやっぱ『ある』な……)


 思わぬ装いに目を奪われるのを我慢し、素直に感想を述べる。


「おお!双子って感じでイイな!可愛い!」

「でしょ~?って……そんな面と向かって『可愛い』なんて言われると、照れちゃう……!」


 もじもじと太腿を擦り合わせる咲夜に、激しく首肯する咲月。


(最近ミーナちゃんに『可愛い』を連発してるせいか、ぽろっと口から出ちゃうんだよな……)


「そんなこと言われても、可愛いもんは可愛いんだからしょうがないだろ……」


 ぼそりと呟くと、ふたりはあせあせとしながら支度を急ぐ。


「さぁ、あんまり遅くなると何にも乗れないよ!平日だからってバカにしたらダメなんだから!」

「そうそう。哲也君は遊園地ビギナーみたいだし、ミーナちゃんだっているんだから、行動は早めにね!」

「お、おう……!」


 意気込むふたりに圧倒されつつも、空のポップコーンバケツを大事そうに抱えるミーナちゃんを抱っこする。すると、ポッブコーンバケツをぐいぐいと押し付けられた。


「にーに……」

「――わかってるよ。遊園地に行ったら中にたっくさんポップコーン入れてもらおうな?甘いのがいい?しょっぱいのがいい?」

(ちなみに俺はキャラメルのがいいな……)


 そう尋ねると、とびっきりの笑顔と共に元気なお返事が返ってくる。


「あまいの!」

「さすがは『アリス』ちゃん。お目が高い!」

「ふふ、にーにしゅき~!」

「はぁあああ……!そうですか~!ありがとう~!」


 ちょっと褒めただけでこの甘えっぷり&懐きっぷり。天使のむにむにほっぺによるすりすり攻撃が俺にクリティカルヒットだ。


「はぁ……可愛いですね……可愛いでしゅね~……」

「あ。ミーナが哲也君壊した」

「もう、幼女に壊されてないでとっとと行こう?」

「だってミーナちゃんがぁ~!」


(可愛いくて可愛いくてしょうがないんだって!)


「「わかったから!」」


 俺はふたりに押し出されるように『夢と魔法の国』へ向かった。

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