第43話 幼女とベーゼとそんな日常
「でも、肝心のヒントがコレじゃあな~……」
そういって、咲夜は足元で転がりながらワンピースのスカートをめくるミーナちゃんに視線を落とす。
「確認なんだけど、記憶が無いわけじゃあないんだよね?」
「おそらくは……ただ、うまく話せないみたいっていうか、下手に引き出そうとすると怖がらせちまうっていうか。まぁ、コレだからな……」
再び視線を向けると、今度は俺の足をよじよじと木登りしていた。
「「可愛ぁあっ――!!」」
「なんかもう、ずっとウチにいてもらおうよ?」
「いや、流石にダメだろ」
「にーに!だっこ!」
「はいはい、にーにですよ~」
「哲也君ノリノリじゃん。顔デロデロだよ?溶けてるよ?」
「し、仕方ないだろ……ミーナちゃんは天使なんだから……」
「やっぱずっとかんき――」
「ダメだって!これ以上俺を誘惑するな!今理性と戦ってんだ!」
「その有様で?」
半笑いでジト目を向ける咲夜の視線の先には、むにむにと頬ずりされて顔面がべろんべろんに溶けた俺の姿が。
「「はぁぁっ――!可愛いっ――!!」」
「はー、もう!やめたやめた!とにかく遊ぼう!ミーナが幸せなら、一旦オーケイってことにしよう!」
「そ、それもそうだな……さっきの目玉焼きみたいに、遊んでるうちに話せるようになることもあるだろうし。こんな小さな子の心に無理に負荷をかけることもないだろう……」
「あ、哲也君が誘惑に負けた」
にやにやと、口元を歪ませて笑う咲夜。
「う、うるさいな……今日は見逃せって……」
「ふふ、哲也君はいつも誘惑に負けてるな~?こないだ『どうしたの?疲れたの?おっぱい揉む?』って聞いたら負けて触ってくれたし」
「ちょ、それは!咲夜が無理矢理ひっついてきたからだろ!?」
(それに、男のロマンなんだから仕方ないって!?)
ここのところふたりとの生活にだいぶ慣れてきたせいか色んな感覚がマヒしているのかもしれない。これだけ四六時中一緒にいてベタベタと甘えられたら、たまにはそういうこともあるだろう。……うん。だからあれは不可抗力だ。
とは言いつつも、胸に視線を向けるとついあの時の感触が蘇り、ふわふわとぽよぽよ、むちむちとぷるぷるで俺の脳内が満たされていく。思い出すだけで、頭がバカになりそうだ。実際、ちょっとバカになっている。
(なんていうか……吸いついて来るおっぱいって、本当にあるんだな……あの、ずっと手にしていたい感触……)
あれは、夢破れた男たちの幻想などでは決してなかった。俺が証人だ。
「ねぇねぇ、また触ってもいいんだよ?ディスイズユアオッパイ」
咲夜はそう言って胸を下から持ち上げてたゆんたゆんと弾ませる。
(うぐ……)
俺は、揺れるたびにいい香りをまき散らす、ワンピースの襟ぐりから零れ落ちそうなソレから断腸の思いで目を逸らす。
「は~もう!そういうのは今はいいって!少しは恥じらいを持てっての!」
「は~い。哲也君のいけずぅ……」
「はんなりしたってダメなものはダメ!ミーナちゃんの教育によくないだろ!」
ミーナちゃんを咲夜から遠ざけるように抱え上げると、不意に小さなお手てがほっぺに添えられる。
「ん~?どした、ミーナちゃ――」
――ちゅ。
「……あ」
「――っ!?」
「ふふ、にーに、ほっぺふわふわ」
「ふわっ!?」
「ミーナってばおマセちゃんだな~?わたしもしよ~っと」
――ちゅう。
(……おい)
「…………」
「……あれ?反応薄くない?もうキス程度じゃ驚かないって?」
「いや、なんで子どもと張り合ってんだよって思って……」
(しかも当たり前のように口にするし……)
「別に張り合ってるわけじゃないよ?見てたらしたくなっただけで」
「あ、そう……」
(というか……)
俺は咲夜に抗議のジト目を向ける。
「お前らがそんなんだからミーナちゃんが真似するんだぞ?」
「お前『ら』――?」
(あ、しまっ――)
見定めるような咲夜の視線は、俺に釘付けだ。そして、想定通りの質問が飛んでくる。
「咲月にも、されたんだ?」
「いや、それは……」
「――何回?」
(うっ……笑顔の『奥』が、こっちを見てる……!)
俺は、正直にバラすより他なかった。
「朝……起きたときに……一回……」
そう答えると、咲夜はにこっといい笑顔を向けた。そして――
「じゃあ、わたしはその三倍する」
「えっ――」
「少なくともあと二回はする!」
宣言するや否や咲夜は首に手を回して襲い掛かってきた!
「ちょ、やめろって!ミーナちゃんもいるんだぞ!」
「さくや、にーにとあそぶの?」
「そうだよ~?ベーゼだよ~?」
「それフランス語だろ!?」
「わ~!ミーナもする~!」
「ダメぇ!」
俺が乙女のような悲鳴をあげながらミーナちゃんを遠ざけると、次の瞬間、咲夜がミーナちゃんのほっぺにベーゼしていた。
「きゃはは!さくやくすぐった~い!」
「ふふ、ミーナはもちもちだね~?食べちゃうぞ~?」
「わぁ!はむはむしないで~!」
(助かった……のか?)
俺を無視して転がりながらじゃれつく二人の姿を見て、俺は胸を撫でおろす。そして、ついつい思ってしまうのだった。
『こんなに楽しそうな顔が見れるなら、ずっとここにいてもいいんじゃないか』――と。
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