第15話 急襲!咲夜(?)さんは禁忌の魔剣に手を伸ばしました。


 ふたりのために、俺も何かがしたい……


 そんなことをぼんやりと考えながら、俺は咲月とふたりで食卓を囲む。

 今日は咲夜が風邪なので夕飯はシンプルなものかと思いきや、咲月は『男の子ってこういうの好きでしょ?』と言って生姜焼き定食を作ってくれた。しかも、俺の好きなしじみの味噌汁付き。


(咲月、こんなときまで優しいんだな……)


 その気遣いと、蜆の旨味が染み渡る。

 俺がしみじみ蜆を啜っていると、咲月は夕飯を平らげて席を立った。


「さ、お風呂入ってこよ。お姉ちゃんの具合を見たら私はバイトの準備があるから、部屋に戻るわね?」

「バイトの準備……?」


(大丈夫か?それ、ブラックバイトじゃないか?)


「うん。なんでも、明日の夕方からお店で何かの試飲会するらしいのよ。ウチ、旗艦店のひとつらしくって。そのせいで、よくわかんないけど書いて持っていかないといけないものがあるの」

「へー。大変だな……?」

「面倒だけど、今のバイト先にはお世話になってるからね。店長も先輩も優しいし。哲也君も、風邪菌移ってるかもしれないから、今日は早めに寝た方がいいと思うよ?」

「ああ。今日はソファーで寝るよ。咲夜がまだ部屋に入るなって言うからさ……」

「…………」

「――咲月?」

「――ううん。なんでもない。食器、流しに置いてくれればいいから」

「いや、食器洗いくらいさせてくれ。咲月が忙しいなら尚更」

「そう?……ありがと……」


 咲月はそう言うとリビングを去って行った。

 俺は洗い物とテーブルの片付け、そして咲月にバレない程度にリビングを掃除した。


(これくらいしか、できることがない……)


 そうこうしているうちに咲月に『風呂があいた』と呼ばれ、俺はもやもやを洗い流すようにシャワーを浴びた。


 夜十一時。結局咲夜とは、数時間前にシャワーを浴びる為に起きてきて以降、顔を合わせていなかった。

 俺は静かなリビングで灯りを消して目を瞑る。


(なんか、調子狂うな……)


 今日の咲夜は弱っているせいかどこか遠慮がちで、いつもみたいな咲くような笑顔を見ることはできなかった。そのことをどこか寂しく思う自分がいて、それが俺を一層もやもやさせているのだった。


(明日は、元気になってくれるといいけど……)


 そう思ってソファーの上で寝返りを打つと、リビングの入り口にぼうっと白い人影が浮かび上がっているのが見えた。

 胸元まである銀髪に、白いワンピース。薄暗いリビングに、蛍のようにぼんやりと浮かぶ白いシルエット。


「咲夜、起きてたのか?てゆーか、着替えたのか?そんな薄着で平気なのかよ?」


 咲夜は俺の問いに答えることなく近づいて来ると、おもむろに俺の上に跨った。


「なっ――」


 突然の攻撃に動揺する俺を見下ろし、頬が紅潮した顔を近づける。

 そして、ぼそり、と一言呟いた。


「哲也君――『家族』になりたい……」

「――は?」

「……わからない?」

「なに、が……?」


 ――次の瞬間。


 戸惑う俺の耳に、囁くような、信じられない言葉が入ってきた。


 ――「シよう、って言ってるの」


「――は?」


(意味が、わからない。急に乗っかってきて?『家族』になりたい?それに、『シよう』って……こいつは一体何を言って……)


「――っ!!」


 意味を理解した俺の顔色が、一瞬で青ざめる。

(そういう、ことかよっ……!)



 ――奴が、本気をだした。



 これまでは誘惑するばかりで直接手を出してくることはなかったが、三日目にしてとうとう本気を出してきたというわけらしい。

 俺は即座にソファーから降りようとする。

 ――が、スッと伸びてきた白い手に両肩を抑えられ、身体全体を使って上から押さえ込まれる。


(ヤバイ……!)


 思わず舌打ちをした俺に、奴は息がかかるくらいに顔を近づける。


「ねぇ、私は哲也君が好き。『家族』になりたいの。だから……」

「…………」


「シてよ?」


「しない……俺はお前達に手を出さない……」


「――どうして?経験ないからコワイの?最初はみんなそうだよ?」

「…………」

「コワイのは最初だけ。最初……そう、それさえ終われば、後は何もコワくないんだから……」

「…………」

「むしろ、やみつきになるかもね?」


 そういって、身体をぐいぐいと押し付けてくる。今日の香りは何だか知らないが、やけに甘ったるい気がする。俺は堪らず顔を逸らす。

 どうにかして逃げようと身を捩るたびに身体が密着して、思うように動けない。脚の間に膝を入れられ、残りの脚もがっちりと片脚を乗せられて、ソファーの間にホールドされている。


(こいつの本気が、ここまでとは……!)


「ふふ……」

「――っ!」


 尚も抵抗を続ける俺の下半身に、白い手がするりと伸びていく。

 ――直接攻撃に出るつもりだ。


「――よせ!気でも狂ったか!?」

「私は――本気だよ」

「何が本気だ!監禁は猥褻わいせつ目的じゃないんだろ!?」


「……仕方ないじゃない」

「――は?」


「君が鈍感で、強情で、いつまでたっても相手してくれそうにないから……」

「そ、それは……」

「こうでもしないと、君と『家族』になれない。私達には、残された時間がない……」

「お前は、何を言って――」

「最初だけでもいい。一度シてしまえば、後は……」


 闇夜に浮かぶ、白い肌をした綺麗な顔が、俺を包み込むような笑みで溶かす。


「――君も、男の子だもんね?」


「――っ!」


「さぁ――任せて?私達は『家族』になって、幸せに暮らすんだ……」


 白い手が、ズボンの内側を這って『改造下着』の隙間に忍び寄る。

 俺は限界を感じて声をあげた。


「――ッ……!!それ以上はやめろ!!咲月!!」


「――っ!?」

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