022  仲間というもの Ⅲ

 瑞希がいつもは見せない笑顔を見せた。



     ×     ×     ×



「何、ニヤニヤしているんだよ。お前、瑞希さんと何かあったな?」


 その様子を見て、大河が祐斗に追求し始める。


「何にもねぇーよ。ニヤニヤなんてしてねぇ。その逆だ。逆。地獄だった」


「地獄か……。俺にとってはむしろ地獄というよりも天国でしかない! 羨ましい‼」


「何言ってんだか……」


 祐斗は、本当に女の事しか興味が無い大河を見て、改めて本当の馬鹿だと思った。


 中央区を抜け、いよいよ西区、敵の本陣へと乗り込む。


「よし、一度ここで止まれ」


 瑞希は、急に足を止めた。


「何かいるのか?」


「いや、ここからは地下を通る。人知れず、西区への入り口だ。そこを知っているのは、数人しかいない。警備が手薄だとするならば、そこしかない」


 そう言って、周囲を見渡し、一度建物の陰に隠れる。


 瑞希は無言で祐斗たちに支持を送り、物陰に隠れながら少しずつ移動する。


 一回、一回、しっかりと確認をするが西区を入る前に何人かが警備をしている。本当に西区に正面から入るのには難しいようだ。


「ここだ。ここから地下へと潜る」


 瑞希は、木や石でできたゴミ捨て場を動かすと、地下へとつながる隠し階段が姿を現した。


「言っておくが、ここは誰にも教えるなよ。後々、面倒だ」


「ああ、分かった」


「分かりました!」


 二人は返事をして、瑞希を先頭に地下へと潜る。


「ここは人から隠れるには最高な場所だ。意外と迷路みたいな道だ。正しい道を進まないと、迷ってしまう。ここは慣れた人間が案内しないといけないから一人で入ろうとはするな。一応、注意はしといてやったからな」


 瑞希は地下に潜ると、すぐにランプの火を灯し、西区へと続く道へと歩いて行く。


「瑞希さん」


 祐斗が訊ねる。


「なんだ?」


「朱音は、西区のどこにいるんだ? 西区と言っても意外と広いんだが……」


「その事か……。恐らく、奴の事だ。西区の中央にあるギルド本部の地下牢だろう。八雲と奴が戦ったことがあるのは知っているな」


「ああ、本人から聞いた」


「俺は初耳なんですけど……」


 大河は、ちょっと落ち込む。


「なんだ、エルメスの奴はそんな事も話さなかったのか?」


「いや、その……はい……」


 大河は、首をガッと落とした。


「奴との戦いは一番避けるべきだ。もし、遭遇したなら〝逃げろ〟としか言えない。それくらいやばい奴だ。魔法も強力で、戦闘能力が高い。私でもどうにかできるギリギリの所だ」


「そんなにやばい奴なのか?」


 大河が祐斗に訊く。


「ああ、八雲さんの話ではそうだった。俺も一度は会ってみてぇ―けどな……。どのみち、助けたところで永遠と追われるのは嫌だしな」


「そう言うと思った。絶対に戦うんじゃないぞ。いいな!」


「分かりました、瑞希姉さん‼」


「へーい」


 二人は返事をする。


「瑞希姉さん? まあ、いいか……」


 大河の呼び名に反応した瑞希だが、そのままスルーする。


 しばらく地下道を通ると、瑞希は再び立ち止まった。


「ここだ。大河は、ここから侵入しろ」


「え、俺だけですか⁉」


 大河が驚く。


「何を驚く。最初から決まっていたことだ。ここは敵の本拠地、一緒に行動したらまずいだろ? 最悪の場合を考えて、あえてバラバラになり、敵の戦力を分散させる。だから行け‼」


「姉さんの頼みなら喜んでいきましょう。この俺、伊勢大河が敵を殲滅してきます‼」


 大河は喜びに満ちる。


「扱いやすいな」


「ね、馬鹿でしょ」


 瑞希は、大河の事をただの手下と見ているらしく。それに祐斗は便乗する。


 大河はそのまま瑞希に言われた通りに階段を上り、地上へと姿を消した。


「さて、次はお前だ。行くぞ‼」


「ああ、頼む‼」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る