021 仲間というもの Ⅱ
八雲は祐斗の師匠であり、冒険者であり、医者である。
瑞希は祐斗の姉弟子であり、冒険者であり、鍛冶師である。
祐斗は修行の初日で八雲に刀を取り上げられ、瑞希に預けた。彼女はそれから多くの素材を集め、朝から晩まで祐斗の刀の準備をした。その合間に、祐斗の修行に付き合い、こうして剣で互いに語り合っている。
「よし、今日はここまでにしよう。そこの水辺で汗を流して来い。着替えは後で持って行ってやる」
そう言うと、瑞希はその場から姿を消した。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」
手を膝に置き、息切れしながらその場に立ち尽くす。
(やべぇー、気を抜いた瞬間、疲れがゾッと襲い掛かってきやがる)
祐斗は、重たい足をゆっくりと動かしながらいつも使っている綺麗な水辺へ歩いて行った。
この地下の自然にも慣れ、外の自然と全く変わらなく、人が作ったとは思えないほどだ。近くの水辺にたどり着くと、乾いたのどを潤すために水を飲み、顔を洗う。水面に映った自分の顔は、傷や泥が付いており、汚く見える。
「情けねぇー顔してるな」
自分の顔を見て、自分自身笑ってしまう。
服を脱ぎ、ズボンを脱ぐ。下着を脱ぎ全裸になると、水浴びを始めた。水は冷たいが、体が凍えるほどの冷たさではない。ゆっくりと浸かり、体全身の疲れや筋肉の腫れを取り除く。熱い風呂に入るよりか、運動した後はこうした適度な温度がちょうどいい。
自分の体がなんだか変な感覚がして、自分の体ではないような感じだ。
仰向けになり、水中の中へと顔まですっぽり入る。目を開けると、天井の光がぼやけ、視界に入っている自然が小さく見え、外から水中を見る見え方と水中から外を見る見え方では、世界が違って見える。
目を開けたままにすると、目が水になれ、水中で開いたまま活動ができる。
すると、そこに瑞希の顔が視界に入り込んできた。
「ぶごはっ‼」
水中の中で祐斗は息が漏れ、すぐに起き上がる。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」
「どうした? 何かあったのか?」
瑞希は何も動じずに、祐斗の着替えを持ってきて地面にそっと置く。
「人が水浴びしてんのにいきなり現れるんじゃねぇ! てか、まじまじと俺の体を見んなよ‼ 恥ずかしいだろうが‼」
恥じらいもなしに瑞希は、そのまま座り込む。
「…………」
祐斗は顔を真っ赤にし、顔だけ水面からだし、それより下を隠す。
「それにしても男の裸くらいでいちいち文句を言うな。お前は女か?」
瑞希が言う。
「じゃあ、俺がもし、瑞希さんの裸を見てもそう言い切れるのか?」
「アホ、もし、お前が私の裸を見るのは十年早いわ。まあ、見たら見たで引っぱたくけどな……」
「げっ、本当にやりそうで怖いな」
祐斗は、少し距離を置こうとする。
「それにしても瑞希さんは、どうやって八雲さんと会ったんだ? あって、あの人、ああ見えて変人だろ?」
「確かにそうだな。あの人は変人だ。一人でこの地下を作るくらいだからな」
「一人で、かよ……」
祐斗は、八雲がこの地下の自然を造る想像をする。
夜になると、この地下も暗くなり、本格的過ぎて、修行中何度か驚いたことがある。
「あの人に会ったのは少し前だ。その頃は私も同じように孤独であり、私自身が嫌いだった。私に本当は弟が居たんだ……」
「居たんだ?」
「ああ、三年前に交通事故で死んだけどな……」
話が少し重くなる。だが、瑞希の目は真剣だ。
「私の弟は、お前と似た奴だったよ。自信家で、仲間思いでありながらも、そこまで強くもない男だ。なぜ、弟が死んだか知っているか?」
「さぁ……」
祐斗は、静かに話を聞く。
「その日は雨だった。信号は青で弟は横断歩道を渡っていた。渡り終えた頃に、小さな女の子がまだ横断歩道の中央で歩いていたんだ。そこにトラックが赤信号を無視して交差点に突っ込んできた。弟はそれに気づき、知らない女の子を庇って助けたんだが……」
「打ち所が悪くて亡くなった……」
それを悟った祐斗が口を開く。
「ああ……」
瑞希は、遠い目をしながら空を見上げた。
「だからお前に言いたい。例え、仲間が大切だろうと命を懸けでも守ってやれ。私の弟は死んでしまったが、お前は死ぬなよ」
「ああ……」
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