016  それぞれの思い Ⅳ

 二人は、呼吸を整え、攻撃の流れを読む。風の流れは、相手の攻撃も変わる。追い風、向かい風で戦い方は変わってくる。


 祐斗は刀を握り、瑞希は、鉄の剣を握る。


 先に動いたのは祐斗だった。周りに生えてある木を利用して、瑞希の周りを駆け巡る。


(もっと速く……もっと速く!)


 そう思いながら、スピードを上げ、瑞希に襲い掛かる。


「紫電一閃‼」


 もう一度、技を放つ。


 だが、瑞希の目にはそれを上回る動きをした。


「もう、それは見破ってんのよ!」


 そう言いつつ、華麗に避け、遠心力の反動でスピードを緩めることができない祐斗の動きを軽々と、剣で受け止め、そのまま投げ飛ばした。


「甘い、甘い! 一度見破っている技が格上の相手に勝てるわけがないだろ? そういうのは、もう少し強くなって、技を覚え、戦術を組み立てられるようになってからだ。八雲、これぐらいでいいかい?」


 瑞希は上を見上げて言うと、そこには木の枝に悠々と座っている八雲の姿があった。こちらを楽しげに見降ろし、祐斗の無様な姿を見て、クスクスと笑っている。


 泥や木の葉で、体のあらゆるところが汚れている祐斗は、笑っている八雲を下から見上げながら不服そうにしていた。


「なんじゃその顔は? そんなに女にボコボコにされてこの先の事が不安になったか? 祐斗、お主はまず、自分が強いって事を忘れることが先じゃ。だから、その為の殺し合いをしてもらった。どうじゃ、瑞希には敵わんだろ?」


 八雲は、祐斗にそう言った。確かに当初は、彼女の事を馬鹿にしていた。女だからだといって、なめきっていた部分があった。だが、実際に戦ってみると、瑞希は思っていたよりも強かった。


 全く相手にならないほど強く、自分の力をすべて出し切ったとはいえ、ここまであからさまに実力差を見せつけられると、なんだかへこむ。


「さて、祐斗。なぜ瑞希に勝てないか、今の戦いで分かったことはあるか?」


「まあ、色々と分かったことはあるな」


「言ってみろ」


 八雲は、祐斗に自分の戦い方を考えさせる。


「まず、単調になり過ぎたことか? 俺は、自分では工夫していたつもりだが、それは瑞希さんにとっては、ワンパターンに過ぎなかった。だから、攻撃がことごとく打ち返された」


 そう八雲に告げる。


「そうじゃ。お主の言った通り、瑞希にとってはお前の攻撃は弱すぎる。戦いっていうのは、殺しにかかる気で戦わなければ必ず負ける。祐斗には、瑞希を確実に殺す気が全く見られなかった。そんな甘ったれた考えでは、絶対に奴らには勝てん。仲間を救いたいのであれば、殺す覚悟を持て、自分の命を賭けられない奴が、仲間は救えない。死に物狂いで、泥沼の中を足掻け、足掻かなければ道は開けん!」


 八雲は木から飛び降り、背伸びをすると、手を腰に置き、ニッと笑う。


「さて、今度は私の修行に付き合ってもらおうか」


「や、休みねぇ―のかよ!」


 祐斗は文句を言う。


「あるわけなかろうが、それに今度はちっとばかしきついぞ」


「マジかよ……。さっきまででも一杯一杯だったのに……」


 と、祐斗は絶望する。


「それじゃあ、祐斗。まず、もうその刀を使うな」


「はぁ?」


 聞き間違いだっただろうか。八雲の口から出た言葉は、思わぬものだった。


 祐斗に刀を使うなと言い出したのだ。


「八雲さん、それは一体どう言うことだ? 俺はこの刀一本で戦ってきたんだぞ」


 祐斗は怒る。共に戦ってきた相棒を手放すことなどできない。


「だからじゃ。もう、その刀で戦うことは出来ん。知っておるか? どんな業物でも使えば、次第に劣化していく。刀も使えば使う程、切れ味が落ちていくんじゃ。この世界が電脳世界であっても、物というものはいずれ壊れ行くもの。今使っておるお主の刀の悲鳴を聞かんかったのか? その刀は悲鳴を上げていたぞ」


 そう言われて、刀を見る。


 確かに所々に古傷が数か所見える。


 しっかりと手入れしてきたつもりでいたが、八雲に言われると、言い訳などできるはずがない。


 自分が今まで自分の刀の声を聴くなど、したことが無かった。刀が悲鳴を上げている。それはつまり、寿命が終わりに近づいている証拠。この先、祐斗が強くなっていく上で、この刀は、足手まといになるのかもしれない。しかし、手放すと言ってもそう簡単には手放せない。苦痛の決断だ。


 祐斗は、自分の刀を見つめると、息を吸い、そして、八雲を見て、覚悟を決める。


「分かったよ。確かにあんたの言う通りだ。この刀は手放す。だが、こいつはこの後、どうなるのか教えてくれないか?」


 祐斗は八雲に問う。

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