015  それぞれの思い Ⅲ

紫電一閃しでんいっせん‼」


 祐斗は、遠心力を使って攻撃の威力を上げる。そして、刀に纏った雷撃を一振りし、瑞希の方へと放つ。


(まずっ‼)


 瑞希は、祐斗が放った光る稲妻を避けるために上に跳ぶ。


「紫電……」


 祐斗は魔法を放った直後、瑞希が避けることを予測し、先回りして背後についていた。


「くっ……」


 それを知った瑞希は、すぐに何か策を0.1以内で考え、すぐに行動に移す。


「一閃‼」


 祐斗の技は、瑞希の正面に入った。これを回避する事なんて不可能だ。至近距離の『紫電一閃』。威力がさっきまでよりもかなり上がっている。稲妻が走り、砂埃が舞い、視界が見えなくなる。自分の間隔では、「勝った」そう感じ取った。


 砂ぼこりは次第に消え、目の前に人影の姿がぼんやりと見え始める。


 それはみるみる女性の体へとはっきりとさせ、祐斗の視界に飛び込んできたのは思ってもいなかった光景だった。


「なっ⁉」


 当たったはずの攻撃を瑞希は、しっかりと受け止めていたのだ。


 あの一瞬で何をしたのか。攻撃を与えた祐斗でさえも分からなかった。


「ふぅ……。あぶねぇ、あぶねぇ。あと少し遅れていたらやばかった。次はこっちから行く。壱の型『炎鉄えんてつ』‼」


 鉄の炎が燃え上がり、祐斗を斬る。


「ぐはっ……」


 祐斗はその反動で一気に後ろへと飛んでいく。岩を何個か砕き、そのまま林の奥へと突っ走る。


(いてぇ、なんだよ。あの女。滅茶苦茶、つえーじゃねぇーか‼)


 段々、勢いが弱まり、やがて地面へと転がる。そして、木にぶつかり、ようやく止まる。


「くそっ! 一体、どこまで飛ばされたんだ? ————っ、頭がいてぇ……」


 祐斗は、後頭部を押さえながら背中を木に預け、少し休む。


(確かに今のは当たったはずだ。しかし、なんでだ? 俺の『紫電一閃』が、全く通用しない。今の戦い方ではダメって事か? いや、鉄は雷に強いよな。それが理由だったりするのか? だが……それでもあんな鉄の剣で受け止めきれるはずがない。もう一発撃ちこんでみるか!)


 祐斗は立ち上がり、刀を握った。


「さて、これからどうする……」


 祐斗は、今いる自分とこの地形を踏まえた上で次の攻撃を考える。


 瑞希がここに来るには少し時間がかかるはずだ。仕掛けはいくらでも対策できる。


(攻撃が通用しない相手に勝つ方法は、奇襲を仕掛ける以外に他が無いって事か……)


 祐斗は、さっきの攻撃を思い出した。


 二連続の『紫電一閃』は、確かに良かったが、受け止められた。再び、同じ攻撃が通用しない事も気づいていた。


「あー、考えても何も出てこねぇ! ちくしょー‼ あのメスゴリラめ‼」


 祐斗は考えも浮かばず、地べたを這いつくばった。


「だーれーがー、筋肉サイクロンゴリラじゃああああああああああああ‼」


 と、どこからか声が聞こえた。


 辺りを見渡すと、誰もいない。林の中では、四方八方から風が流れ込んでくる。


 上を見上げると、木の葉の密集から人影が現れた。


「おりゃああああああああああああ‼」


 瑞希は、何も持たずに素手で殴り込みに来たのだ。顔は鬼のような仮面をつけた表情だった。右手拳に力が入り、祐斗の腹に目掛けて重い一発を入れた。


「んぎゃあ!」


 祐斗は、変な声を出した。


「ええ? 誰が何ゴリラだって? お前には、少し痛いのを味わなせないと気が済まないらしいな?」


「そこまで言ってねぇ! それよりもここまでどうやって追いついた‼」


 祐斗はすぐに起き上がって、刀を握り直す。


「ああ? 目上の人には敬語だって教わらなかったのか? ああ?」


「いえ……何でもありません。どうやってここまで……来たんです……か……?」


 口ごもったまま、引きずった顔で言う。


「さっきの場所から移動して来たんだよ」


「速かったすね」


「修行すれば、これくらいどうって事もない。しかし、なんで八雲は、こんなバカに手を貸しているのか分からねぇーな。祐斗! お前は、何のために強くなりたいんだ? この世界から帰還するためか? 権利を得るためか? なんのために戦う?」


 瑞希は真剣な眼差しで、祐斗を見る。


「俺は仲間のため、友達のために戦う。それが誰であろうともだ!」


 祐斗はよそ見せずに、瑞希を見る。


 林の中に冷たい風が流れ込む。近くに水辺があるのだろうか。

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