014  それぞれの思い Ⅱ

「さあな。だが、私はあのギルドが気に食わん。それだけじゃダメか?」


「いや、別に問題はないが……」


 寒気がした。


 八雲から心の内に秘められた殺気が祐斗に伝わった。


 この女性は、過去にどんなことがあったのかは知る由もないが、恨んでいる事だけは分かる。


「さて、修行を始めるぞ。ついて来い‼」


 八雲は、祐斗に言う。


「修行って、どこにあるつもりだ? さっき、この家からは出ては行けねぇーって、あんたが言ったんじゃないか」


 祐斗はゆっくりと起き上がっていった。


「そうじゃ、この家は私の家じゃ。だから、この家の改造もしてない訳なかろう。行く場所は、地下じゃ。行くぞ、馬鹿弟子」


「俺はあんたの弟子になったつもりはねぇが……」


「ああ? 何か言ったか?」


「いえ、何もありません……」


 八雲が祐斗を睨みつけると、祐斗はすぐに謝り、八雲の後を追った。




 八雲の家は、シンシナティから少し離れた場所にあった。


 医者でありながら人気のない場所にいるのは、少しおかしいようなおかしくないような感じがした。


 そして、家の地下には広々とした自然が広がっていた。


 草原、森林、水辺、岩などの自然のエリアが、様々なところに作られていた。


 この場所にいるのは、祐斗、八雲、そしてもう一人、祐斗と同じくらいの少女がいた。


「八雲さん、ちょっといいっすか?」


「なんだ? 何かあったか?」


「いやー、その非常に申しにくいんだが……その子……誰?」


 祐斗は、少女を指差す。


 着物姿は着物姿ではあるが、荒っぽい着方をしており、男女という感じがした。


 頭には長い鉢巻をぐるぐる巻きにしており、両手にも同じように巻いていた。


「こいつか? こいつは私の一番弟子じゃ。お前の姉弟子にあたるな」


「いや、俺は弟子になったつもりは‼」


「まだ、そんな言い訳をしておるのか? 死んでもいいと?」


 八雲は、ギロッと睨みつけてくる。


「死にたくないです‼」


 祐斗は怯えながら答えた。


「それならいい。死にたくなければ、ここにいる私の一番弟子の加古瑞希かこみずきに勝って見せろ。そうだなぁ、瑞希に一発でも喰らわせればお前の勝ちでいいぞ」


「え! そんなんでいいのか⁉」


 祐斗は、びっくりした。彼女に一発でも攻撃が入れば勝利という。なんと、なめられたルールだ。


 八雲は、瑞希の方が祐斗よりも強いと判断した上での発言なのだろう。


 屈辱だ。男が女に負けるはずがない。ましてや、祐斗は冒険者であり、様々な過酷な場面を乗り越えている。負けるはずがない。そう思った。


「大丈夫じゃ。お主よりか瑞希の方が強い」


「はっきり言ってくれるじゃねぇーか。いいぜ、一撃で決めてやる」


「ほう、面白い! 瑞希、遠慮はいらん。全力で叩きのめせ」


 八雲は一歩後ろに飛び下がる。


「いいんですね、八雲」


「ああ、お前の力を見せてやれ」


「分かりました。掛かってこい、二流剣士」


 瑞希は、グッと構えた。


 祐斗もまた、刀をしっかりと握り、構える。


「行くぜ‼」


 祐斗は、正面から瑞希に向かって突っ込む。


「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおお‼」


 スピードを上げ、刀に勢いをつけ、一気に斬りかかる。


「甘いな‼ 黒鉄こくてつ‼」


 瑞希の右手は、何かを握るような感覚を見せながら祐斗の攻撃を止めようとする。右手の周りには、地面から吸収した砂で祐斗の攻撃を止めた。


「何っ!」


 びっくりする祐斗。


「どうした? そんなにビックリする事ないだろ? この世界は魔法がある。魔法は、使い方によってはメリットやデメリットにもなる。よく覚えておけ。ちなみに今の技は、『黒鉄』と言って、砂や土に紛れている鉄、いわゆる砂鉄を凝縮し、一つの鉄にまとめ、剣にし、お前の攻撃を受け止めたんだ。すごいだろ」


 瑞希は、自慢げに祐斗に言った。


「なるほどな」


 祐斗は、瞬時に次の攻撃に打つ。一つの攻撃が止められたからだといって、次の攻撃に繋げなければならない。

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