第3話 それぞれの思い
013 それぞれの思い Ⅰ
【暁の猫】から襲撃を受けてから二日後————
祐斗はエルメスに連れられて、とある場所にいた。
「うわぁああああああああああああああ‼」
祐斗は、勢いよく布団から毛布をめくり起き上がった。汗が体内から大量に出ており、布団にしみ、濡れている。ここがどこだかよく分かっていない。知らない天井、知らない畳、知らない部屋、自分がいつ、どこに運ばれたのか記憶にない。
若宮から受けた斬撃により、血が大量に出た上、死んでいなく、気を失っていただけが奇跡に近い。傷も包帯で巻かれ、しっかりと処置されている。
「ここは一体……」
祐斗は未だに自分がなぜ、こんな場所にいるのかも理解していない。
「早く、朱音を助けに行かないと……」
祐斗は、深手を負った体で立ち上がろうとする。
「うっ……」
傷が痛む。二日、三日で治るはずがない。
「やめておいた方がいい。お主の今の力では、奴らに勝つことすら出来ぬ」
「誰だ⁉」
横に置いていた刀を握ると、鞘から抜き、辺りを見渡す。
「物騒な奴じゃのう。助けてやった恩人に刀を向けるか、面白い奴じゃ」
女の声が自分の耳に聞こえてくる。
「どういうことだ⁉ 俺があの野郎に勝てねぇとでも言いたいのか⁉」
祐斗は見えない女の声に問いただす。
「そうじゃ、今のお主では奴、いや、そのギルドを相手にしても勝つことは出来ぬじゃろう。今のお主ではの話じゃがな……」
女は急に祐斗の目の前に現れ、刀を払い除けると、腹に一発、拳を入れる。
「ぐふっ‼」
祐斗はそのまま後ろに後退りしたまま倒れる。
「痛いじゃろ。それはお主がまだ治っていない証拠じゃ。このまま敵の本陣に乗り込めば、お主は確実に命を落とし、ゲームオーバーじゃ」
女は、祐斗の隣にゆっくり腰を落とした。
カーキ色の服に黒のズボン、女性としてはあまりにも離れた服のセンスではあるが、スタイルは良く、顔は美人であった。伸ばされた後ろ髪は一結びにされており、肌は白い。
「あんたは一体……」
祐斗が女に訊くと、女は微笑み、口を開いた。
「私か? 私は
八雲はそう言うと、薬と水の入ったコップを差し出す。
「ほれ、これを飲め。一時的ではあるが、ある程度の体力を戻すことは出来るじゃろう」
八雲の言う通りに祐斗は薬を飲む。
「————⁉」
祐斗は何かに気づく。
自分の体がさっきまでより軽くなったような感覚だ。不思議だ。あんな薬でこんなに体が楽になるとは思ってもいなかった。
「すげぇ……」
思わず言葉を漏らす。
「そうじゃろう。この薬の効果は約十時間。それを過ぎると、二時間は体のほとんどが自由に聞かなくなるという副作用じゃがな」
「十時間か……。それなら————」
と、立ち上がろうとするが、
「待て待て! どこに行くつもりじゃ?」
八雲は、片手で祐斗の行く果てを止める。
「どこって【暁の猫】の所だ!」
「馬鹿言え! さっきも言ったが今のお主では負けるって言っておるじゃろうが‼ まだ、その耳に届いておらぬのか‼ この馬鹿者め‼」
八雲は、顔を片手で掴んだまま、壁の方へと放り投げた。
「私の患者は、完治するまでこの建物から一切外には出さん。覚えておけ! 次、逃げ出そうとするならば、容赦はせんぞ」
八雲は、祐斗を睨みつける。
「いてぇ……」
八雲は、祐斗の目の前まで来て、仁王立ちしたまま話を続ける。
「お主がその少女を助け出したいのは分かっておる。エルメスからは、大体の話は聞いたからの。だからこそじゃ、奴らが事を動かすとするならば、今日から約一週間後くらいじゃ。それまでにお主は今よりも強くなってもらう」
八雲が祐斗に提案した。
「なんで、あんたはそこまでやってくれるんだ?」
祐斗は気になって八雲に質問する。
疑問だ。何も接点が無い人間に人は良くしてくれるのだろうか。分からない。
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