017 それぞれの思い Ⅴ
「その刀を溶かす。だが、他にも色々とやる事はあるがな……」
祐斗はそれを聞くと、刀を鞘に戻し、八雲に渡す。
八雲は、それを受け取り、瑞希に渡した。
「瑞希、私がこやつの修行を終えるまでにこれを用意しておけ」
と、もう一つメモを渡した。
「分かったわ。じゃあ、後はよろしく」
そう言って、立ち去ろうとするが、瑞希は途中で足を止め、振り返ると祐斗の方を見た。
「そうだ。そうだ。祐斗、なんでお前は魔法を使わなかった。あれ以外にも持っていただろ?」
瑞希は、疑問に思っていたことを祐斗に訊いた。
祐斗は、頬を掻きながら答える。
「ああ。しかし、俺は刀で使う魔法しかもっていない。その中でも強力なのがあれってわけだ。俺は俺の力で戦って、あんたに負けた。ただ、それだけの事だ」
負けを素直に認める祐斗。
「そうか。まあ、卑怯な事は考えられない。正直者みたいな奴こそ私は好きだぞ! お前は真っすぐな性格が似合っている。小細工はするな。正面から相手とやり合え‼」
そう言い残すと、目の前から一瞬にして姿を消した。
「消えた……」
祐斗は唖然とする。
「今のは『
「そんな魔法あったのか?」
「いや、これは私のオリジナルじゃ。一部の奴にしか教えておらん。意外と習得するのは難しいからのぉ。これはセンスが問われるぞ。と、言いたいところじゃが、お主には見込みがある。これくらい簡単に覚えられるじゃろう。これは後で教えるとして、これからは私の魔法と技を覚えてもらう」
八雲は、武器ストレージから木刀を二本取り出し、そのうち一本を祐斗に渡す。
「これは私の特性木刀じゃ」
「いや、ちょっと待て! なんで今からあんたの魔法と技を俺に教えるんだ⁉ どうみてもメリットなんてどこにもないだろ⁉」
と、木刀を受け取りながら祐斗は八雲に言う。
呆れかえった八雲は、「はぁー」と溜息を漏らし、祐斗を見る。
「あのなぁ。私が教えるからいいんだよ。ごたごた言ってないで始めるぞ。やるのか、やらないのかはっきりせい‼ その捻くれた根性から叩き直してやろうか?」
八雲は、祐斗を睨みつける。
「や、やります‼」
ビック、と体を震わせ、大声で返事を返す。
「よし! それじゃあ、特訓を始めるぞ! 今日から三日以内に私が教える技を覚えろ。よーく見ておれ。一度しかやらんからな」
八雲はそう言うと、剣を構える。右手に持ち、左手で支え、左腰に立ち構える。
目を閉じ、自分の呼吸を感じ取る。心臓の音がリズムに乗って、一定の音を刻み込む。
そして————
「壱の型、『
素早く剣を抜き、黒い炎を放つ。
かまいたちのように鋭い刃を纏い、黒い炎が燃え、木を焼き斬り刻む。
八雲は、切り終えた後、木刀を振り落とし、元の態勢に戻る。
「どうじゃ、ちゃんと見ておったか?」
「ああ、しっかりと見ていたんだが……」
と、祐斗が言葉を止める。
「どうした? 言ってみぃ」
「それじゃあ……。さっきもそうだったんだが……なんであんたらは「壱の型」とか呼んでいるんだ? 疑問に思って……」
瑞希も八雲と同じような技を使ってはいたが、少し違っていたのを覚えている。
彼女らの構えは、独特的で剣や刀を応用した魔法の技なのだろう。
「それかぁ……。これはまぁ……要するに剣や刀を使う冒険者用の技じゃ。私がお主に教えるのは壱から壱弐。それぞれしっかりと特性があり、戦いによっては戦法が増える。今見せた壱の型『黒炎』は、その名の通り黒い炎を纏い、斬撃を撃つ技じゃ。魔力の強弱によってはその威力が変わる。強い持ち主ほど威力が上がり、斬撃も大きくなる。やってみろ」
そう言われて、祐斗も八雲と同じような構えをする。
「そうじゃ、呼吸を一つにしろ。落ち着け、イメージするんじゃ。『黒炎』は、自分の技じゃと思え、お前にできるはずじゃ」
言われた通りに呼吸を整え、目を閉じ、木刀をしっかりと握る。
(思い出せ、さっき見た技を……。思い出せ、あの黒煙を……)
自分に言い聞かせるように繰り返し、繰り返し、反復する。
「壱の型、『黒炎』‼」
木刀は黒い炎を纏い、八雲と同じような技が放たれる。
「でた……」
「ほう……」
祐斗が驚き、八雲もまた、驚く。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます