011  腕利きの弓使い Ⅳ

「————‼」


 祐斗は、相手の陰から獲物を狙う獣のような殺気を察知した。


 すぐに後ろを振り返り、朱音を捕まえて後方へと飛び退く。


 いつ、自分の後ろにいたのか声を掛けられるまで分からなかった。そこには男が立っており、自分より格上って事がすぐに分かる。


「お前は……一体……」


 祐斗は刀をすぐに抜き、敵視する態度を取った。


 この男は危険だ。何もせずともすぐに分かる。今までであって来た人とは、何か違う。


「俺はギルド【暁の猫】第二番隊・隊長の若宮常幸わかみやつねゆき。そこの裏切り者の女を迎えに来た」


 男は、腰に剣を二本差しており、侍の姿の服を着ていた。


「裏切り者だと? 裏切ったのはそっちじゃなかったか?」


「俺はそんな話を聞いていない。これは団長命令できた。速やかにそこにいる彼女を引き渡してもらおう」


 若宮は、祐斗を睨みつける。だが、祐斗は若宮に朱音を引き渡すつもりはない。


 【暁の猫】と言えば、朱音が前に所属していたギルドである。


 周りの客が騒めき始める。公の場でこの状況は非常に不味い。


「引き渡すつもりはないって言ったら?」


「貴様を倒してでも持ち帰ることにしよう」


 若宮は、祐斗が刀を抜き、敵視する態度をとっても微動だもせず、平然としている。


「若宮隊長、殺しては駄目ですよ。団長命令で女だけを連れて来いって言われてますよ。殺しだけはしないでください」


 祐斗の背後からは若宮の仲間と思われる男が現れた。


(ちっ、もう一人、仲間がいたか!)


 祐斗は前後を取られ、逃げ場を失う。


「なんだ、なんだ? 何かあったのか?」


 厨房からは、再び大河が姿を現せた。そして、今起きている現状を目の当たりする。


「おい! うちの店で何してやがる‼ 客じゃねぇ―ならさっさと朱音さんだけ置いて、店を出て行きやがれ‼」


 大河は、怒りを沸騰させ、なぜか、その険悪な雰囲気の中、自分の信念は曲げずに訳の分からない事を言いだした。


「てめぇ! この状況が分かってんのか?」


 祐斗は、大河に問う。


「分からん。だが、朱音さんだけは置いていけ‼」


「ふざけやがって……」


 祐斗は舌打ちする。


 この状況下において、大河を相手にしている暇などない。


「さて、最後の忠告だ。女を渡せ‼ 渡さなければ実力行使で貴様を排除する」


「やだね。こいつは俺の仲間だ。仲間を裏切った奴に負ける気がしねぇ‼」


 瘦せ我慢する。勝てる確率なんて自分の頭の中では考えていない。刀が微動だに震えているのが分かる。


「分かった。仕方がないが、私も剣を抜かせてもらおう」


 若宮は二本の剣を両手に持つ。


「手を出すなよ」


「分かってますよ。手出しはしませんって……」


 若宮がそう言うと、男は一歩後ろに下がり、二人の戦いを見届ける。


 祐斗は立ち上がり、刀を両手で持つ。呼吸を一つに集中させ、一撃で決めるつもりでいる。


 すると、朱音が祐斗のズボンのすそを弱弱しい力を振り絞って握る。


「お、お願い……私は……もういいから……」


「何を言っているか分からねぇーな。俺が負けるかよ‼」


 祐斗はニヤッと笑う。


 刀に力を籠め、一気に斬りかかった。


 キンッ!


 刀と剣が交わりあい、金属音の音が店内に響き渡る。相手もそう簡単にやられるわけにはいかない。


「貴様の力はこんなものか?」


「何が言いたい⁉」


 若宮は、何かに失望したかのような目で祐斗を見下す。


「そうか……。それなら……」


 目の前にあったはずの剣が消えた。


「え?」


「貴様には、興味が無くなった。倒れたまま、己の未熟さに悔やむがいい」


 左肩から右斜めに切られた箇所から大量の血が飛び散った。そのまま、祐斗は地面に力無くして倒れる。


「きゃああああああああああああ‼」


 客の一人が悲鳴を上げた。多くの客が店から外に出て行く。


「さて、連れていくぞ‼」


「はい、隊長……」


 二人は、朱音の方へと近づいていく。

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