004  仕組まれた陰謀 Ⅳ

 ドンッ!


 手榴弾は放物線を描きながら飛び、地面に落ちると光を放ち、爆発した。


 小さな爆風に砂が舞い上がり、祐斗の方向に小さな痛みが向かってくる。目を凝らしながら、壁の向こう側を見ると、新たな道があった。


 そう、マップに存在していない道がここである。道は奥へと続いており、どこに繋がっているのかもわからない。罠だと言ったら、そうだと言い切れないが確かに怪しすぎる。


 しかし、用心したことに越したことはない。


「見たことないな。一体、この先に何がある……」


 祐斗は、眉を顰めながらゆっくりと前へと歩き始めた。


 一応、誰にも気づかれないように新たな壁を念入りに作っておいた。


 足元をしっかりと確かめ、歩くこと十分、広い場所に出た。人の通った形跡はなく、祐斗が初めてこの場所を訪れたということになるだろう。目の前には、怪しげな大きな扉が立ち構えている。


 広場は明るかった。


「なんだ……ここは……」


 祐斗は唖然とする。


「聞いたことが無い。こんな所に……」


 祐斗は、ランプの灯を消し、アイテムストレージに戻す。ゆっくりと銃を構えながら広場の中央へと足を踏み込んだ。


「舞え、白桜しろざくら‼」


 どこからか人の声が反射的に飛び交い、聞こえてきた。


 いつの間にか周囲に無数の白桜の花びらが舞っていた。


 祐斗は気づいていなかった。いつの間にこんな仕掛けをされていたのだろうか。不用意に動くことができない。一つでも触れたら何か攻撃されそうだ。


「人の体とその間をすり抜ける事を三次元的に考え、そして、その動きを封じ込める計算。物理学を全て注ぎ込めば人間の行動範囲を計算できる。重力、速度はもちろん。その計算は複雑。面白い……」


 声は上の方からだった。


 祐斗は、見上げるとそこには、小さな金髪姿の少女が立っていた。歳はおそらく中学生から高校生の間だろう。


「そして、さ迷う餌を捕食する。生き物の世界では、全てが計算されていないようで計算されている。この世界でも同じこと。ふふふ……実に面白い……」


「くっ、お前は一体何者だ‼」


 祐斗は、少女を見上げたまま叫んだ。


「私はここの住人」


「住人……だと?」


 祐斗は、眉を顰める。


「そう。私はこの世界に来てずっとこの場所にいる」


「なんでこんな場所にいるんだ?」


「私が弱いから……」


 少女はそう答えた。


「はぁ?」


 祐斗は、その返答を疑問に思う。彼女は自分の事を『弱い』と言っているが、そうだとは思えない。スキのない散りばめられた花びら。これに触れれば終わり。よく見ると、ステイタスはレベル44。さほど低いってわけではない。普通より少し高いくらいの冒険者レベルだ。


「だったら、なんで俺を襲う⁉ なにも攻撃していないだろ?」


「そんなの関係ない。私の領域に入ってくる人は全て敵。敵なの……」


(相当な警戒心だな……。何かあったか?)


 祐斗は、息を吐く。


「そんなに敵視されたらこちらも手を抜くわけにはいかねぇよな。だったら、俺も本気でいく‼ 知ってること洗いざらい吐いてもらうぞ‼」


 祐斗は、銃を武器ストレージに戻し、腰に差した刀を抜く。


 神経を研ぎ澄まし、一点集中で構える。


「解った。私も手は抜かない。全力で相手をする。向かってくるといい……」


 少女も戦闘態勢に入る。


 敵は、祐斗とは真逆の遠距離型の攻撃を軸にスキを突いてくるつもりだ。そして何よりも今までの話から逆算すると、計算尽くした策略。勝敗をつけるには、少し時間がかかるだろう。


「行くぞ!」


 祐斗は、刀を握りしめ振りかぶった。


 刀が花びらに触れると、思っていた通り爆発した。爆風が強い。一回、一回、相手にしていたらこちらがダメージを受けるだけだ。


 無視してでも相手に近づく。足を止めずに、少女の目の前から姿を消した。


「き、消え!」


 少女はびっくりする。


 当たりを見渡すと、祐斗はいつの間にか壁を乗り越えていた。


「何驚いているんだ? これくらい普通だろ」


 祐斗は、容赦なく遅いかかかってきた。


「くっ……」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る