005  仕組まれた陰謀 Ⅴ

 少女は後ろに飛び跳ねて祐斗の攻撃を避ける。


 さすがに今の攻撃を避けられるとは思わなかった。ゼロ距離からの攻撃、レベル的には祐斗の方が上回っているが、戦いの知能戦は、彼女の方が上だ。


 すぐに次の攻撃が祐斗に襲い掛かってくる。


氷矛ひょうむ


 少女は、右手を地面置くと魔法陣を展開させ、無数の氷の槍が飛んでくる。


「ふんっ!」


 一振りでそれを斬り落とし、前へ前へと突っ込む。


「距離十メートル。時速約三十キロ前後。重力63㎏。重力加速度で計算。攻撃の威力、それに対する防御、耐久、回避を計算すると……。できた……」


 少女は小声でブツブツと何かを言い終えると、フッと笑みを浮かべて両手を合わせると、そのまま地面に両手をつけて、再び魔法を発動させる。


氷の盾アイスシールド‼」


 祐斗の攻撃を計算した上の鉄壁な氷の盾だ。


 祐斗は刀を振るわず、壁を使って、足をつけると、その力を利用し、後ろに飛び跳ねた。


「なるほど。これは……」


 と、祐斗は刀を鞘に戻し、両手を上げ、これ以上は戦わないと相手に示した。


 そして、ゆっくりと少女の方へと近づいていく。それに気づいた少女もまた氷の盾を解除し、警戒心は解かずにそのまま立った状態で、いつでも攻撃できるように頭の中で何通りの複雑な計算をする。


 冷汗が、額から首筋を通り、服に染みつく。


「何もしない。ただ、話だけでもしてもいいか?」


「分かった」


 あっさりと答える。


「お前は、なぜ、この空間に閉じ込められていたんだ? あの壁を壊せば、すぐに地上へ脱出もできるだろ? 今の戦いで、ここから地上まで脱出できる確率は高いはずだ」


「そう、私の計算だったらここを切り抜けるには容易い事。でも、それは絶対にできない」


「なんでだ?」


 祐斗は少女に問う。


「それは……」


「それは?」


「私は仲間に裏切られたからよ」


「はぁ?」


 祐斗は戸惑った。もっと闇深い内容が出てくるかと思えば、仲間に裏切られたからだというのだ。


「今から約三か月前の事。私は【暁の猫】というギルドにいたわ」


 少女は話を始める。


「この電脳世界に来た人々は、ギルドを作り、仲間を作った。皆が、生き残るためにはそれしかなかった。私は誘われ、ギルドに入ったわ。でも、それ自体が間違いだったの」


「へぇー」


「興味ないでしょ!」


 少女はジト目で祐斗を見る。


 興味が無いわけではない。ただ、なんとなくこの先の展開が見えているからである。要するに、裏切られたことには変わりないのだ。


「いや、話を続けろよ」


「それから三ヶ月、私達はパーティーを組みながら、様々な冒険をしたわ。このルデン山だってそうよ」


 地下十一層なのか、この空間はやけに寒気がする。


「私は当時、ギルド内で孤立していたの。分かるでしょ? さっきの戦いでなんとなく……」


「ああ……」


 祐斗は頷く。


「私は全てを計算で物理的に考えてしまう。小学生の頃には、大学生レベルの物理学をマスターしていたの」


 大学の物理学というと、簡単に言えば、現段階で彼女に勝てる大人は数少ないというよりもそれ以上に貴重すぎて、注目される方が多い。ノーベル賞レベルの天才少女だ。さっきまでの戦いでレベルの高い祐斗の攻撃を軽々と受け止め、避けきっている。


「人の動きを数秒単位でこの世にある数式を使い、算出してしまう。それこそが仲間に嫌われた理由」


「だったら、なんでこんな所に閉じ込められたんだ? 逃げ切れただろ?」


「不意を突かれたの……」


「不意を突かれた?」


「そう、私の気の緩んだ隙に気絶させ、ここ、地下十一層に置いて行かれたの。気づいた時には、モンスターに囲まれていた」


 それを聞いて、祐斗は息を呑んだ。


 確かに気絶させられた後、いつの間にか敵が周りにいたら驚きもするだろう。そもそも仲間は、彼女を置いてくる前提でその時は、パーティーを組んでいたのかもしれない。


「悔しくはないのか?」


「えっ?」

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