003  仕組まれた陰謀 Ⅲ

 それより下にはまだ行った事が無い。


 地下に潜るたびに、モンスターのレベルが上がっていくのだ。そして、上にいくほど同じような構造になっている。


 しかし、ルデン山の第一のダンジョンはこのどこかにあるのだ。


 近くには他の冒険者もいる。


 祐斗は、ためらわずに一気に地下十層まで穴の中へと飛び降りた。


 誰にも見られていない。この抜け穴を知っているのは祐斗くらいである。他の冒険者は一つずつ階を降りなければならない。最高の狩場といってもいいだろう。


 地下十層まで一気に飛び降りると、そこには一層よりも遥かに薄暗い空間が広がっていた。少しは、明るく自分の周囲くらいは把握できる。モンスターの複数の目が明るく光り、こちらの様子を岩の壁から窺っている。


 祐斗は、静かに剣を抜き、ショットガンから小型の銃に変え、身体を動きやすくする。


 この狭い空間で、銃を連射すれば、自分に当たる可能性があるからだ。


 弾丸に魔力を籠め、発射後に魔法を展開できるようにしておく。


 そして————


 ルデン山の洞窟に潜むモンスターたちが一斉に襲い掛かってきた。


 現状況で把握できる敵は、大型サソリと肉食うさぎ、中型コウモリだ。


 大型サソリの名は【サンドーピオン】。推定レベルは3~35。持ち前の大きなはさみと尻尾の針で攻撃してくる近接型のモンスターである。レベルの高いサンドーピオンほど毒を持っている可能性が高い。俊敏性を持ち、動きが速い。


 肉食うさぎの名は【フッドラッド】。推定レベルは5~20。足のバネを生かし、周囲をかき乱すほどの速さを持っているが、攻撃力はそこまで高くはない。どんなモンスターよりも聴覚が優れており、3キロ先の物音まで敏感に聞こえていると言われている。


 中型コウモリの名は、【ウォンバット】。推定レベルは2~15。超音波を発し、相手の居場所を突き止め、更に相手を混乱させるほどの高音を持っている。歯に噛まれると、そこから吸血され、体力を奪い取る。


 おおよそ、その三体のモンスターを一人で対応するのは、レベルを上げた冒険者くらいにしかできない。


 祐斗は、刀で受け止めながら銃で撃っていく。


 大量の血が飛び散り、祐斗の全身は返り血を受ける。


(さすが、この洞窟内を知り尽くしている事だけはあるな)


 戦いの中で、しっかりと周囲を把握し、情報処理能力を上げ、一匹ずつ確実に倒していく。


 生臭い血が、鼻の位置に当たり、嗅覚を刺激し、一瞬立ち眩みする。


 だが、攻撃の手を緩めるわけにはいかない。


 地形を大いに使い、銃で洞窟の天井に出来ている氷柱つららの様な光る石を狙い、相手の動きを止める。このような場所での魔法の使用は、間違いでもあれば自分が攻撃を受けてしまう。だから、こういった場所は、しっかりと組んだパーティーを持ってくるのが先決なのである。


 気づいた頃には、襲い掛かってくる全ての敵を倒していた。


 モンスターたちが、血を流し、横倒れになっている。


 祐斗は、一息休憩を入れ、それから素材をはぎ取り、アイテムストレージに入れる。


「ふぅ……これぐらいでいいか……」


 祐斗は、素材を全て手に入れるとメニューを開き、マップを見る。この世界の地図からこの山に限定し、それからダンジョンへと、範囲を狭くしていく。


 ここから先、地下十一層に行くには少し歩いた道を降りていかなければならない。


 何度か十一層に降りたことがあるが、一つだけ不自然な場所を見つけたことがある。


「しかし、こうも何度も十層での戦闘は体力的に面倒くさいな。せめて、回復を持っている冒険者が一人でもいれば……」


 と、つい独り言が漏れてしまう。


 確かにそれは決定的な事であり、これから先、旅が過酷になるにつれて一人では乗り越えられない高い壁に遭遇するだろう。だからこそパーティーやギルドに入る事がいいのだが、半年になって、今更、他の冒険者と組もうと思っても組めるとは限らない。強いて言うなら、祐斗と同じソロで活動している冒険者と組んだ方が効率的にもいい。


(一応、明かりを点けておくか……)


 アイテムストレージからランプを取り出すと、油を注ぎ、火をつける。刀は鞘に戻し、銃だけは右手に持っておく。


 地下十一層はものすごく静かだった。


 何かがおかしい。


 今までだったらどこかにモンスターが潜んでいてもおかしくないのだが、全ての五感を研ぎ澄ませて、周りを警戒しているが、襲い掛かってくる様子が無い。


 何かあったのか? あるいは、ここに自分よりも先に誰かが来たかの二択に過ぎない。


 祐斗は、どんどん奥へと足を運んでいく。


 そして、今まで疑問に思っていた十一層の一つの場所で足を止めた。


 ここだ。ここなのだ。今までなんでこの先に行かなかったのか自分でも驚いているのだ。


 獣の嗅覚なのか、本能的に避けてきた。


 目の前にはそびえ立つ壁。


 人工的に誰かによって作られた岸壁なのだ。


(ここから先を調べなければ原因が解らないって事か……)


 祐斗はアイテムストレージから威力の低い手榴弾を出し、ある程度の距離を離れて、投げた。

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