30.弟と塚本くん1


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


何度鳴らしても出ない電話。

何度送っても返事のないメッセージ。

あぁ、いらいらする。

これでも少しくらい反省しているのに。頭に血がのぼって思わず殴りすぎてしまった。昨日の夜、兄さんは倒れた拍子に床に頭を打ち付けて気を失ってしまった。流石にあれには焦って、その瞬間ようやく熱が冷めたのだ。だからこんなにも心配して連絡しているというのに。朝だって起こさないでいてやったというのに。


舌打ちをしながら兄さんの携帯に電話をかけるが、全く出やしない。メールを送っても一緒。腹立ち紛れに何かに当たろうとして、今自分がいるのが学校だということを思い出し冷静になる。最近の自分は感情的になりすぎだ。少し落ち着かなくては。下手に本性を出すと生きづらくなる。友達だって家族だって別に嫌われることは構わないが、それ故に色々と面倒なことになることは避けたい。兄さんを見ていればよく分かる。

だから俺はうまく、それなりに「いい人」を演じ続けている。器用に生きていれば人間関係なんて案外チョロイもんだ。内心でどう思ったってエスパーでもない限り相手に伝わることはない。



周囲を取り囲む同級生たちの退屈な話を聞きながら、ふと一瞬不安がよぎる。まさか死んでるんじゃないだろうかという嫌な考え。だが、死ぬような傷では無かったと思う。ニュースで思わず殺してしまったなどと言っているような馬鹿な連中とは俺は違う。どんなに腹がたっても冷静にいなくては、自分が損するだけ。だから殴る時だって極力見られない所にし、見える所は階段から落ちたとかそんな言い訳が通るようなものにしようと細心の注意を払っていた。しかし例えば兄さんが自殺していたとしたら少々困る。あの怪我を誰が負わせたのかも捜査されるだろうし、家族は一番の容疑者になるはずだから。証拠がなかったとしても疑われることは覚悟しておかなくてはならない。まあ、あの兄に限って自殺はないと思うが。案外しぶとい人間だ。どんな理不尽な目に遭っても、文句すら言わなかったとしても、内心は死んでいない。屈したように見せかけて、淡々と心の奥底でそこから脱する方法を練っているようなやつなのだ。


ーそもそもまだ死んでもらっては困る。

真実を知った後の兄さんを見届けることを今最も楽しみにしているというのに。


そしてその後…はどうするかまだ決めきれていないが。兄さんの態度と俺の気分次第だな。


そんなことを思いながら発信ボタンを繰り返し押しているが反応はない。しばらく教室で立ち尽くしていたが、どうしようもないので俺は携帯をしまう。それからまた時折電話をかけて確認するが、折り返して来ることはなかった。








  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る