負から正へと
その戦場は中央に立つ二つの生命体がぶつかり合ったことによる衝撃波で整地されている。非常に凄まじいものだったと一目で判る。
そんな二つの生命体は今、直立不動の形を貫いている......
┅┅┅
「さて、どうする?」
「お前から来いよ」
「お断りするね。君こそ」
「俺だっておんなじだ」
あれからどれほど経っただろうか。といっても実際は五分程度しか経っていないのだが二つの生命体達はこの緊迫した空気から一時間ほど過ぎたのではと錯覚する。
(このままじゃ埒が明かない)
あまりの戦況の不変さに堕天使が指先を動かしたとき、突如大地が揺れ始めた。時間が経つに連れ、揺れは更に大きくなる。二十年前に起きた「王都直下大地震」を思い出させるほどだ。
「クッ!なんだこの揺れは!」
これにより堕天使は立っていられなくなってしまう。羽ばたこうとするもまだ慣れていない翼で翔ぶのは無理だったらしく、地に伏せる形となった。だが反対にエルは飛び掛かっていった。
「なぜ君は動けるのかなっ!」
「さあ?頭の回転じゃねえのか?脳筋過ぎる頭じゃダメだぜ?頭を使わねえと」
「言ってくれるねえ」
┅┅┅
[数分前]
エルはひっそりと準備を進めていた。『目隠し』を施してある魔道具「魔倉庫」を使い魔力を常に自分へと供給し、魔力切れを起こさないようにする。この魔倉庫はエルの身体の魔力を三回満たすことが可能なほど魔力を入れられるという優れものだ。
堕天使と軽口を叩きつつも脳内では大規模魔法の詠唱をする。大規模魔法とだけあって詠唱に時間は掛かったものの両者膠着状態なので心配は要らなかった。
が、しかし、これから行使する大規模魔法は自分も被害を受けるので対策として『飛行』を自分に《
これで準備は万端。
エルは大規模魔法『天変地異』を発動した。
┅┅┅
堕天使は即席の『防護壁』を魔方陣から三枚錬成する。一メートルほどの厚さで高さもかなりある。更に魔方陣からの生成だ。かなり強固な壁なので並の魔術師では越えられない。だがエルは並ではない。そんな並ではないやつはこれを正面から溶かして堕天使へと進む。
「こんなもんじゃ俺を止めるにゃ足りねえぜ?」
「.........」
エルは最初に神聖魔法『光熱』を剣に付与していた。その為、エルの聖剣には光の粒子が纏われていたのだ。一枚、二枚、三枚溶かしたところで遂に堕天使の元へ辿り着いたと思ったがそこに堕天使の姿は無かった。
「おいおい逃げ腰かぁ?そんなんじゃいつまで経っても勝てねえぜ?」
「.........」
辺りを見回すも姿が見当たらない。それどころか軽口を叩く声すらも帰って来ない。
「また『隠密』など使っているのか?」と不意討ちに注意していると衝撃波の範囲外に五つの檻の残骸が散らばっているのが見えた......と同時にエルから力が抜けていく。『強奪』の効果時間が切れたのだ。
(まずい!このままでは力で、数で圧倒されてしまう!)
と即座に判断したエルは『身体強化』を五重に重ね掛けした。
その直後エルの背面から大きな衝撃が来る。と同時に空中に浮いた魔方陣から三メートルほどの槍が三百六十度、各方向から雨のように降り注ぐ。『魔法障壁』を展開しある程度は防げたものの、三本ほど間をすり抜けエルの手足へと刺さってしまう。
堪らずエルの口から呻き声が漏れる。
「ううぅ......」
「「「「どうだ?」」」」
「痛いか?」
「悔しいか?」
「泣きたいか?」
「今どんな気持ちだ?」
「「「「教えてくれよぉ......なぁ?」」」」
森から飛び出してきた堕天使達は『融合』により中位の堕天使がもう一体現れ残りの二体は下位の姿のまま、計四体となりエルの数的不利は続く形となった。
そして気持ちが昂ったからか若干口調が変わっている。
「大規模魔法で体勢を崩し強化した聖剣で一発......とでも思ったのかい?自分に魔法を《付与》したときも一瞬発光したからすぐ解ったよ。甘いなぁ......それだから救えるもんも救えねぇんだよ。」
「聖剣の力も引き出せず、おまけに戦略もあまあま......天使は一体なにやってんだか。天啓やらなんやら。ため息も出るよこれじゃ」
「はぁぁぁぁああぁぁ......」
「黙れ!!!お前に何がわかる!!!知ったような口を聞くな!!!」
「おやおや、大層お怒りのようでどこが癪に障ったのかな?」
堕天使は口調を戻し相手の戦略を言葉に出し、更には盛大なため息を吐いてエルを煽ってみせた。エルは子供のように煽りを真に受け言い返す。その顔は鬼の形相そのものだと言っても過言ではない。
そんなエルは今、感情のままに動くことしかわからない。
(俺は......!!!そんなんじゃ......!!!)
エルは全速力の『飛行』で思い切り堕天使を斬りかかる。だが力任せに、乱雑に振るエルの剣は動きが単調過ぎて簡単に避けられてしまう。
「クソッ!!!なんで当たらねぇ!!!僕はこの堕天使をぶっ殺してやりたいってのに!!!なんで!!!なんで!!!!!」
「そんな気持ちで剣を握り、振っても全力を出すことは出来ねえよ」
「黙れ!!!」
エルは聞く耳を持たずに斬りかかり続ける。
この斬りかかりには「散々軽口を叩いて余裕ぶっていたのにやられてしまい自分が情けない」「手足に空いた
堕天使は収束がつかないと思いエルへ大斧での重い一撃を放った。
受け身を取ることも叶わず、エルは十メートルほど吹っ飛んだ。
「ガハッ!」
「ったく鬱陶しいな。これで終わりだ。戦闘の見込みあると思っていたが結局はただのガキだったってことか」
エルは吹っ飛ばされたことにより冷静さを取り戻す。そして念のためにと常時行使していた『魔力感知』が一気に反応する。堕天使の方向を見ると巨大な魔方陣を四体架かりで組み立てている。
(俺の人生はこんな情けない終わり方なのか)
とエルが諦めかけた瞬間脳内に声が響いた。それと同時にぼんやりとした人影が浮かび上がった。
《 汝は何を求める 》
(俺は力が欲しい!!!誰にも......負けないような......!!!)
エルはその声に戸惑うことなく答える。
《 して対価は 》
(力を手に入れたら......俺は......全ての人々を脅威から守る!!!)
こう思ったときふと脳裏に自分の元パーティーメンバーであり、最も愛しているあの子のことが浮かび上がった。
(悪ぃ。そっちに行くのはもうちょっと先みてえだ)
《 了解した 汝の願いに答え力を授けよう して対価を見届けるべくこの身汝と共にあることを約束しよう 》
その瞬間、天から一筋の光がエルへと直撃した。
が、悪い影響は無く、それどころか空は一切の雲無く、空気は清み、地は緑化していき、エルは光に包まれ回復していった。
そして堕天使が組み立てていた魔方陣も砕け散った。
何事かと思い辺りを見回すと光に覆われ、物質を持つ『何か』がある。
何かと疑問を払拭するべく下位堕天使が《付与》の『特性:
「動くな!!!」
中位堕天使二体が何かを察知し堕天使のみが得られる闇魔法『暗霧』を発動した直後光の球が弾け、辺り一面真っ白に染まった。
次の瞬間現れたのは大きな聖剣を肩に担いだ《神聖》『上位天使』だった───
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