語らい

明らかに脳筋過ぎる突破方法なのだが意外にもこの脳筋戦法が効くようで檻は犇々ひしひしと悲鳴をあげている。


「嘘だろ......」

「嘘じゃないさ!見てごらん?これが堕落した末に得た僕の強さだよ」

「ハッハッハッ!君も味わうかい?この圧倒的な力を」

「ハッ!んなもん死んでも御免だ」


 堕天使の言う通り狂化は圧倒的な力を誇っている。エルの牢もすぐに突破されるだろう。こうなっては時間の問題だ。


「さて......どうすっかな!」


 エル一人に対し、狂化した堕天使二体と正常な堕天使。エルは強奪により強化されているも、この状況は非常にまずい......

 だというのにエルは何故かワクワクしていた。


 というのもこれまでエルは様々な困難を乗り越えてきた。

 呑気に森を散歩していたらドラゴンの住処に入ってしまったり、戦闘の最中自分の不手際で大切な人を失ったり......

 そんなときエルは弱音を吐いたり涙を流したりはしなかった。今回もその例に埋もれない。彼はどう動くのだろうか───




 数のアドバンテージを再び得た堕天使は勇猛果敢にエルへと襲い掛かる。

 これらを上に跳んで回避すると堕天使二人は見事にぶつかり合った。


「ハッ!ざまあねえな!」

「チッ!黙れ!」


それでももう一人の堕天使は静観している。


 事あるごとにエルは堕天使を煽る。これが意外にも効いているようで堕天使は段々イラつき、冷静さを失い始めている。堕天使は短期なようだ。


 「これでも喰らっとけ!」


 そういってエルは聖剣を抜き傍観している堕天使へと向かう。すると傍観していた堕天使の体が輝きだし、辺り一面が光に包まれた。


「クッ!なんだこれ!」


 エルは辛うじて防げたものの視界はやや不安定であった。その隙に、静観していた堕天使とぶつかり合った堕天使...計三体の堕天使が粘土を捏ねるように闇に包まれされていく......


 エルの視界が安定してきたとき目の前に現れたのは使だった。


 というのもこれまで戦っていた青年の容姿をした堕天使ではなく、あどけなさが消え、しっかりとした顔つきの堕天使だった。両腕を広げたぐらいの大きさの翼に、黒をベースとした古い天使の制服を着ている。

 中位故か漆黒とまでいかないものの、背から生える翼も黒い。


「フッ......これが『融合』か......」

「なんだ?その姿は?」

「ハッハッハッ!これが堕落した末に得た姿だよ!どうだ?美しいだろう?」

「ハッハッハッ!そうだなぁ......糞ダメよりかは美しいよ」

「天使様にはこの美しさが解らないか......悲しいなぁ?」

「さあ?悲しいのはどっちだか?」


 エルのいつもの煽りが効かないほど心に余裕の出来た堕天使は再び話し続ける。


「いやぁ...君のさっきの攻撃......下位の姿じゃ危なかったよ」

「いやはや堕天使様から称賛のお言葉を頂くとは......クソほど嬉しくねえ。これなら綺麗なねーちゃんに言われた方が何倍も嬉しいぜ」

「僕もだよ。どうせ対峙するなら綺麗な女性が良かった。存分に虐めてあげたかったなぁ......」

「ハッ。イカれてるぜお前」

「お互い様だろ?口はそろそろにして始めようじゃないか」

「おう。綺麗なねーちゃんと戦いたかったってのと目の前の奴を捻り潰したいって点は同じみてえだ」


 罵り合いが終わると同時に二人は行動を起こす。


   エルは既に抜き出している聖剣を構え、神聖魔法の詠唱を始めた。


   堕天使は魔方陣を錬成し何かを作り出そうとしている。


「「いつでもいいぜ(よ)」」


 双方詠唱を終え手にしているのは縦が二メートルほど、幅は七十センチほどの剣だった。


 エルの持っている聖剣の元の大きさは縦一メートル幅三十センチほどだったが、神聖魔法により刀身に光の粒子が纏われているような見た目に、そして一撃がずっしりと重くなっている。

 しかし見た目とは反対にエルの筋力でも持てる程度の重さらしく、ブンブンと振り回している。


「んじゃお先に」


 一方、堕天使の持っている剣はエルの白く僅かに光を帯びた剣とは相反するものである。


 刀身は黒く禍々しいオーラを放っている。大きさは同じなのだが堕天使の剣は全て実体化されており、聖剣のようにあやふやではない。故に非常に重量がある。

 しかし『身体強化』をかけてあるので特に問題はない。


「意外に一撃が重いね」


 堕天使は一時後退それに合わせエルは懐へ一気に攻め込む。が、しかし、堕天使はそれを難なく捌く。

 まるで「余裕だ」とでも言うように。それは剣術の力量から来るものだった。


 エルは神聖魔法というような《魔術》を得意とする。反対に堕天使は錬成や剣、斧というような《剣術》を得意としている。つまりこの剣術による戦いはエルが若干の不利なのだ。


「こりゃキツいな......」


 それを見兼ねエルも一時後退。互いに『身体強化』を施す。


「おや。君も意外と頭脳派だったかい?口調からはそう思えないけど?」

「ハッ!余計なお世話だ。お前も意外に知的なうぜぇ喋り方する癖に武力派なのかよ」

「うざいとは心外だなぁ。まあ己の『パワー』をふんだんに使い敵を殲滅するのは僕の趣味嗜好に当て嵌まっていてね?」

「......やっぱりイカれてやがんな」


 ヒットアンドアウェイが続くこの戦い。各々が持てる頭脳を忙しなく働かせているためにこのような形になっている。疲弊していない現在、敵へ攻勢丸出し、無防備凸でもすればカウンターを喰らう羽目になる。

かと言って強固な砦のように防戦一方になるとそれはもう泥沼だ。体力も魔力も尽きてしまう。


 何かがあるまで当分剣を交えることは無いだろう......

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