休日出勤からの思わぬ出会い
-王令195年-
グリフォンが一つの家の前で急ブレーキをかけ家主に向かって咆える。天界でよく見る光景の一つだ。なんでも、天界を統べるゼウスが「うちのかわいいグリフォンを見せたい」という理由で1000年ほど前から始めた郵便制度なのだが、これが意外にも好評で今でも続いている。
眠気眼を擦りながらドアを開け、手紙を受け取るとワシャワシャとグリフォンの頭を撫でるこの男はエル。『天空の騎士・序列 Ⅰ の席を持つ。
天界の騎士団には上から順に『天空の騎士』、『双翼の騎士』、『秩序の騎士』とある。天空の騎士は余程の事がない限り、天空回廊というところで事務処理をしている。
今日はオフということでこの真っ昼間まで惰眠を貪っていたのだが、その眠気もこの手紙により吹き飛ばされることとなった。
「先日の地界視察で逃げ出した堕天使一人の討伐」
というのが手紙の内容になる。
手紙の詳細としては「双翼の騎士達でも討てなかった堕天使が、魔の森、東側に逃げたので捜し出して討ってくれ」というものだった。「全く双翼の騎士達は何をやっているんだか......」と育成係であったエルは一人ため息を吐く。
だらしないエルが指輪に魔力を流すとたちまち光出し、数秒後には身なりの整ったエルになった。これはエルがオークションで入手した魔道具で、天空の騎士になってからは愛用している。「時は金なり」という言葉もある通り、身支度の時間は最小限に抑えたいというエルの考えだ。
転移装置に乗り、行き先を魔の森に指定する。すると視界がブレた途端、景色が生活感溢れる家から鬱蒼と木々が生い茂る森へと変わった。
「ここか......後でゼウス様には報酬倍にしてもらうよう言わなきゃな」
視認は出来ないが『魔力察知』が反応しているので間違いない。エルが『魔視』を発動しようと再び魔力を練りあげたとき、背後からいきなり声を掛けられた。
「やあ。そんなに敵意剥き出しでどうしたんだい?それじゃあ気配察知を使わなくとも森に入った時点ですぐに判っちゃうよ」
エルは振り向き様に抜刀し斬撃を放つ......がしかしその斬撃は空を斬る。つまり誰もいなかったのだ。
直ぐ様感知魔法をフル稼働し敵の居場所を掴もうとするも感知に引っ掛からない。相手は『隠密』系のものを習得しているかなりの強者だと判断する。
静寂が訪れる。
.........
.........
.........
「やあ。どうして隠れた?」
最初に静寂を破ったのはエルだった。
「そりゃあ君は僕を殺すつもりだろうからね」
またも声が聞こえる。が、しかし、今度は全方位から聞こえてきた。
先程声を掛けたとき即座に振り向き、攻撃されたことへの対策だ。「なかなか機転の効くやつだな」とエルは感心する。
「なあに殺しゃしないさ。ちとおねんねしてもらうだけだ」
「ちょっと?ならいいかもな。ただし、お前も一緒にな」
軽口を叩きあったところで火蓋を切ったのは全方位から聞こえる声の主だ。全方位から頭に光輪だったものを乗せたエルと同い年くらいの青年が現れた。堕天使の情報と一致する。
エルはどこかに一体、堕天使がひそんでおり、声は魔法で反響させているものだと思っていた。そのため少し反応が遅れ、腕にかすり傷が出来た。戦場での油断は命獲りと改めて確認させられた。エルと八人の堕天使はお互い距離を置く。
「おいおい、相手の戦略を読めたからって油断してたのか?ハッ!俺も随分舐められたもんだ」
「おめーのその考えも油断じゃねえのか?」
「フンッ!言っておけ!」
目の前に容姿の同じ奴が八人もいるのは変な感覚だが全員が同等の、しかもある程度力を持っているというのは由々しき事態だ。このままでは数の暴力により殺されてしまう。
そこでエルは『
「獄中でおねんねしときな」
「クッ......」
ちなみにこの『強奪』は体力を奪うだけでなく、武力や知識までをも奪う優れものだ。代わりに五人分までという条件付きだ。
……しかし天空の騎士ともあろうお方が盗賊のような手法を使うのはどうかと思うがエルはそんなこと気にしないらしい。
『強奪』により五人分のパワーを一時的に手にしたエルは一人ずつ相手していく。
「よう。数で押し切ろうというお前の油断......気を付けた方がいいんじゃねえか?」
「ハッハッハッ!そりゃ忠告どうも。でもそんな余裕君にあるのかな?」
意味ありげなその言葉にエルは後ろを振り返る。
するとそこには『
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