第8話 いざ王都へ

「……。」


アルディオンとハナンは無言でセレナを見つめた。当のセレナは握りしめた両拳を掲げている。


「協力しようじゃないの!」


(いや、二回言わなくても聞こえていたが…。)

アルディオンが困惑している中、ハナンがコホンとひとつ咳払いをした。


「セレナ。我等の務めを忘れたか?話を聞いていたか?」


「覚えてるし聞いてたわよ、爺様。でも、マカトを連れて行く事は出来ないでしょう?私は愛し子じゃないけど、精霊の声を聞いて状況を教えてあげる事ぐらい出来るわよ。特に水に関する精霊とは相性良いし。」


ハナンは腕を組み考え込んだ。


「同じ大陸の人達が困ってるのよ。というか、元々は同じ民族だった人達もいるし。出来る事なら助けてあげたいじゃない!マカトも、そう思うよね?」


マカトはセレナの顔を見ると困ったように微笑みながら、頷いた。まるでお転婆な妹を見るような目だ。


「ありがとう、セレナ。」

アルディオンはセレナに礼を言った。


「別に、あなただけの為じゃないわ。それに私じゃどこまで役に立つか分からないし…。」


「それでも、声をあげてくれた事に感謝する。」


心底嬉しそうに微笑むアルディオンを見てセレナは不思議そうに言った。


「やっぱりあなた、王族っぽくないわね。王族って、もっと偉そうかと思ってたわ。」


「え?」


「マカトと話してた時もそう。わざわざ屈んでマカトと視線を合わせてたでしょ?」


「そう…だったかな。」


「自分は王に相応しくないとか言ってたけど、私はあなたみたいな王様ありだと思うけど。」


真っ直ぐな言葉と共に、セレナに見つめられてアルディオンは動揺した。初めて他人から、そんな事を言われた。


「私に出来るだろうか…。」


つい、そんな言葉が口に出た。出来るも何も、廃太子は決まったようなものだが。


「知らないわよ。」


「は?」


にべもなく返される。唖然としてるアルディオンに構わず、セレナはハナンの方を見た。


「爺様、私に行かせて。」


先程から考え込んでいたハナンは、ようやく腕をほどき、マカト、セレナ、そしてアルディオンを見て口を開いた。


「確かに、マカトを無闇に外に出す訳にはいかない。かと言って、殿下のお頼みを無下にする訳にもいきませんしな。私が共に行ければ良いのですが、この老体ではご迷惑をお掛けするでしょう。」


ハナンはセレナを見た。


「決して理に触れるような事をしないように。また我等の存在はエスタリス王家と一部の人間しか知らない。その事を忘れてはならないぞ。上手くやれるか?」


「やるわ!やってみせる。じゃあ、すぐに支度してくるわ!」


セレナは力強く頷くと、外に飛び出して行った。部屋が一気に静かになる。


「台風のような娘だな。」


アルディオンはポツリと呟いた。


「幼い頃に両親が死んでしっかり者に育った反面、少々強引な所もありましてな。」


ハナンは苦笑しながら答えた。


「殿下。孫娘を、どうぞよろしくお願いします。確かに、愛し子ではありませんが、あの子も精霊との結び付きは強い方です。お役に立つでしょう。」


ハナンはアルディオンに深く頭を下げた。


「ああ。彼女の事は絶対に無事に森まで帰す。協力に感謝する。ハナン。」


続いてアルディオンは、少し不安げな顔をしているマカトを見た。


「そなたの姉は必ず守り抜く。安心して待っていてくれ。」


マカトはゆっくりと頷いた。

その様子を見たハナンは微笑みながらアルディオンに話しかけた。


「セレナの言った通り、あなたは良き王になられますよ。相手の立場で物事をお考えになる。王にとって一番難しく、そして大事な素質です。王妃様の教育の賜物ですかな。」


「母上を知っているのか?」


「数回しかお会いした事はないですが。ご立派なお方でした。」


「そうなのか。私はあまり母上の事を覚えていなくてな。」


「無理もありません。まだ殿下は幼かったですからね。」


そう言いつつ、ハナンはアルディオンの様子にどこか違和感を感じていた。

見た目だけではなく、他者への接し方も王より王妃に似ている。それでいて、どこか達観しているような

、諦めてしまっているような気の弱さ。


(一体、何があったのだろうか。)


儀式の際に王都に出向く事はあれど、基本的に政治とは距離を置くハナンには王都で起こった事の全てを知る術がない。それでも、目の前の王太子の過去に何かがあった事は察せられる。


(殿下自身は無自覚のようではあるが…。)


「そういえば…」

アルディオンが口を開く。


「そなた達の服の紋様は古代ダンデルシア人のものだな。色の違いは何か意味があるのか?」


「ええ。それぞれの色は属性を意味しています。精霊と我等の間には相性があります。火の精霊と相性が良ければ赤、水の精霊であれば青というように、各々の属性の色を着ています。」


「ああ、それでセレナが相性がどうとか言っていたのか。」


「はい。ただ、精霊の愛し子であるマカトの場合は相性などは関係ないので、我等の象徴色である紫の紋様ですがね。」


「お待たせ!」


ハナンがちょうど話し終わったタイミングで、セレナが戻ってきた。小さな麻袋を肩に斜めがけにしている。


アルディオン、ハナン、マカトは立ち上がった。

ハナンはアルディオンの手を取った。


「殿下。これまでの殿下の道のりを存じ上げませぬが、どうかご自身をあまり卑下なさいませぬよう。影ながらご成功をお祈りしております。お気をつけて。」

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