道程
すぴすぴと火の番をするズールイの腕の中でカテリーナは睡眠を貪っている。その傍にいる馬たちも安全だと理解しているのだろう落ち着いた様子で体を休めていた。
「人を何だと思ってんだ、コイツは」
「ベッド」
「ララ」
「聞かれたから答えただけですよぉ」
「ははは、あれじゃないですか? ほら、その、副団長の傍が安心するとか」
信頼されている証ですよというエリゼウはそういうがズールイは嬉しいとも何とも言えない。
「俺じゃなくてもいいだろ」
「そこはアレですよぉ、肉付きの良さ」
「お前はさっきから喧嘩売ってんのか」
「えー、思ったことを言ってるだけですぅ」
「余計、質が悪いわ!」
「副団長、副団長、あんまり大きな声を出したら若起きちゃいますよ」
「……チッ」
エリゼウの言葉に同意するようかのようにもぞもぞと動いたカテリーナにズールイは舌打ち、黙る。
「なんだかんだ甘々ちゃんですねェ」
「時間になったら叩き起こしてやるからとっとと寝ろ」
「叩き起こすとか、女の子に対しての所業じゃないですよぉ。てか、若はどうします? 番に組み込みます?」
「入れるわけねぇだろ。あと、ララ、お前は一番最後な」
「えー、うちの睡眠時間ー」
「知らねぇよ」
そんな会話をズールイとララが交わしている間にもエリゼウは木に凭れ、夢の中に落ちていた。それを見たララはズールイの悪口を唱えながら、毛布に包まる。そして、暫くもすれば寝息に代わり、ズールイは全くと溜息を零した。
問題児もとい自由すぎる奴らだなと己が感じる一方で自身もそのうちの一人に入っている事実もまた認知していた。そもそもアレハンドロの騎士団はアレハンドロ自身が拾った身分も明らかでない者たちで構成されているのだから、当然と言えば当然のことだった。
パチパチと音を立てる焚き火に薪をくべながら、ズールイは腕の中の将来に想いを巡らせた。いずれは公爵家だけでなく魔族すらも背負いそうな小さなか体。それを支える大役に身分を明かしていないズールイが選ばれ、ズールイは逃げられねぇなとギュッと服を握ってきたまだまだ小さな手に笑みを零した。
翌朝、ズールイは拗ねた小娘から朝食の代わりとばかりに脇腹へ一撃を喰らった。
「エリゼウの馬に乗せて」
「え、無理です! ダメです! 副団長で我慢してください!!」
「おい待てコラ」
「ズールイは意地悪したから嫌!」
ぷくーと膨れるカテリーナに馬にしがみつき、首を振るエリゼウ。そして、全力拒否されたズールイに選択肢に自分の名前が出てないことに首を傾げるララ。
「若、本当に無理です! いざって時に守れる自信がないんです!」
「大丈夫、僕が守ってあげるから」
「はぐぅ」
「おい、こら、エリゼウ、揺れるな」
「ねぇねぇ、うちの選択肢がないんですけどぉ」
がやがやと言い合いをしていると魔獣除けの火が消えていることあって周りに魔獣が集まっている。しかし、気づいていないのか、いい加減にしろだのズールイの意地悪だの、ねぇうちはぁなどと言葉が飛び交う。
そして、じれたのか一匹の魔獣が雄叫びを上げた瞬間、魔獣たちに悪寒が駆け巡った。
「「「「うっせー、黙ってろ!!」」」」
カッと開いた目で全員が同じ言葉を威圧と共に吐く。それには集まっていた魔獣たちは我先にと押し合い圧し合いながら、逃げ出した。
「……魔獣だったな、今の」
「でしたねぇ」
「のーせーてー」
「ダーメーでーすー!!」
「「…………」」
いまだに押し問答をしているカテリーナとエリゼウにズールイとララは沈黙。ズールイに至っては溜息を吐き、頭をガシガシ掻いている。
「若、いい加減にしろ」
「火の番くらい僕だってできるよ!」
「わかったわかった。じゃあ、今晩やってみろ。その代わり、一番始めだ、いいな」
「うん!」
パァッと明るくなったカテリーナにいいんですかと不安そうなエリゼウ。そんなエリゼウにズールイはこれ以上時間を取られたくないからなと言葉を漏らした。それには確かにとエリゼウも頷き、カテリーナが火の番をしている時はどうするのかララも含め話し合うも、自然とズールイが寝たふりをするということで落ち着くのだった。
本日の火の番の順番を決めれば、焚き火の跡を処理し、出発する。カテリーナは勿論、ズールイの馬に引き上げられていた。
そして、途中にある沢で水を補給し、ついでに体も清める。
「では、ヤロー共は後ろを向いてくださぁい。うちは若のお肌を堪能します!」
「「「いや、ララも後ろを向くべき」」」
「なんでですかぁ!! うちの本業は主人の身の回りのお世話ですよぉ!!」
「いや、うん、なんか、身の危険を感じる」
「若、コイツは俺らが抑えといてやるからさっさと入ってこい」
「うん、ありがと、そうする」
「酷いですぅ!! うちの癒しぃいい」
うわぁんと鳴くララの声を背にカテリーナは汚れた体を綺麗にする。そして、解放されたララは文句を言いながらも清め、ズールイ、エリゼウと順に清めた。
「明日には森を抜けられそうだな」
朝に時間を潰してしまったが、問題なく進めたとズールイは推察する。ちなみに問題なくと入ったが魔物に遭遇しなかったわけではなく、本日出くわした猪型魔獣のグルトンジャバリーは夕飯となり、すでに四人の腹の中である。
「森を抜けたらすぐにあるの?」
「いえ、森を抜けて、もうしばらくは行かないとダメですね」
「ああ、だから、森を抜けて一泊してだろうな。こっち側は村も集落もねぇからな」
火を囲み、明日以降の確認する。なぜ、小さな集落すらもないのかと聞けば、単純問題として、集落を維持できる戦力がないということだった。現に、今回出たグルトンジャバリーもそうだが、魔の領域と言われるだけあってその体長も強さも桁が違う。それゆえに、襲われると普通の人間だとひとたまりもない。
「集落を形成するよりも街に逃げ込んだ方が生き残れるってことか」
「そういうこった。まぁ、これから行くドスエルボは元々要塞だったところでもあるから余計にな」
成程とカテリーナは頷き、ドスエルボを頭にメモした。そして、そこからはそれぞれ、馬の状態、自身の状態を確認し、積載している食材や備品の確認も一通りしておく。
「若、何かあったらすぐに起こせ」
「一人で行動しちゃダメですからね」
「怖かったら、うちの腕に来てもいいですからねぇ」
「あー、もう、大丈夫だから、さっさと寝ろ!!」
注意事項などを告げるズールイとエリゼウに私欲全開のララの言葉にカテリーナは怒る。そんなカテリーナに笑みを零し、一名を除いて眠りへと落ちていった。とはいえ、その除かれた一名も不思議なことにそのつもりはなくても意識を手放していた。
パチパチと音を立てる焚き火の音を聞きながら、カテリーナは心配性共めと愚痴を吐き出す。
「クォーン」
そんな時、どこかで鳴く声がカテリーナの耳に届く。まるで助けてというような声にズールイ達の言いつけを忘れ、カテリーナは自然とその声がする方に走り出していた。
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