出立
カテリーナが11歳を明け、数か月後、町へ行く用意が整った。街に行くぐらいなのにそんなに用意などいるのかというカテリーナは不満に思ったのだが、ズールイから近くの街に行くだけでも4日。ベージョティエラの主要な街を回るとしても移動だけとしても20日はかかるという。それを聞いたら、それはもう納得するしかなかった。
「ララ、その恰好」
「はい、私も同行することになりましたぁ。こうやって、外で戦うのは久しぶりですねぇ」
すでに準備されている馬は5頭。うち2頭は駄載獣になる。その馬たちの傍に立っていたのは両刃斧のラブリュスを2本交差させて背負うララ。メイド姿しか見たことなかったそのララの姿にカテリーナは首を傾げる。
刃の部分はだいぶ厚みもあり、それが2本ともなれば相当な重量になるはずであるがけろりとした顔をしており、早朝に起こされたこともあってか欠伸をしていた。
「ララの相棒だぞ、アレ」
「え、うそ」
「いや、マジで。王都に居た時は女装したゴリゴリの男だと思うほどだったぞ」
いやー、あれを初めて見た時は変わった故郷の友人を見た時並みにビビったと遠い目をするズールイ。そうカテリーナとズールイが話している間にもララはちょっと運動してきまぁすと言って走りに行ってしまったが。
「でも、流石に今は厳しくない?」
そんな容易に扱える容姿ではないと尋ねるもララの主なスキルは身体強化であるため問題がないのと現在の姿は後発スキルである身体変化によるものだとズールイは説明する。
「今でも雑魚程度ならラブリュスで真っ二つだな。まぁ、今のララの姿を見ても、王都の奴らは気づかねぇだろうがな」
「強烈だったんだな」
「それはもうな」
そんなやつがメイド服に身を包んだ時は阿鼻叫喚の地獄だったと死んだ目をしたズールイは語った。ちなみに何故、桃色の髪をハーフアップにした可愛らしい姿になったのかは騎士団の中で最大の謎らしい。
「お待たせして申し訳ありません」
「エリゼウ、問題ないよ。ララなんて暇だから体動かして狂ってちょっと走りに行ったし」
「あー、彼女なら、そうですね」
寝癖をつけてやってきたエリゼウは犬耳がへにょんと下がっていたがララの話をすれば、ちょっとだけ上向きになる。とはいえ、いつもは遅れない彼が遅れた理由を尋ねれば、緊張から寝れず、寝れたと思ったら寝すぎてしまっていたそうだ。
「そんなに緊張しなくてもいいのに」
「いえ、若に何かあってはいけませんので!!」
「うん、皆そう言ってくれるのは嬉しいけど、僕も自分の身を守れるぐらいには強くなってるからね」
「それでもです。何かあってからではと思っていたら……寝坊してしまったわけなんですが、本当に不覚で、情けなく」
話していて、自分が情けなくなってきたのか上向いていた耳がまた下を向く。
そんなところに走りに出ていたララがただいまぁと戻ってきた。
「じゃ、全員集まったし、行くか」
「うん!」
「はい!」
「はぁい」
ララ、エリゼウ、ズールイはそれぞれの馬へと跨り、カテリーナはズールイの馬に乗せてもらう。
「ケイ、気を付けてね」
「うん、いってくるね」
眠た眼で屋敷の外に出てきたマティアス。本来であれば、マティアスも同行する予定だった。けれど、アマラントの特別レッスンを受けるということで今回は不参加とした。ただ、また後日一緒に街に行こうと約束は交わしている。
そして、屋敷の入口にはアレハンドロとメルセデスの姿。行ってきますと手を振れば2人とも笑顔で返した。
「ところで、ズールイさん、屋敷の裏手にある岨に向かっているようなのですが」
「あぁ、飛び降りるからな」
あぁ、だから行くだけならなんだねと納得し、馬の首にしがみついた。
「お前、よくズールイにビビらないよね」
偉い偉いと言ってるとくすくすと笑いながら、横にララが並ぶ。
「若若、大丈夫、最初は馬、ビビって逃げてましたからぁ」
あの何とも言えない顔は最高だったと笑うララにズールイは眉を顰めただけで、特に言い返さなかった。岨に着くと先にエリゼウと2頭の駄載獣が軽やかな足取りで下りていった。そして、次にララが下りていく。馬たちは怖がる様子もないから、慣れているのかと問えば、この辺りで暮らしていた魔獣寄りの馬たちであると教えられる。
「なるほど、だから、こういうところでも平気なのか」
うんうんと頷いていると、下りるからしっかり掴まってろとズールイからの声があり、改めて馬にしがみつく。それを確認したズールイは岨を下る。
「普通の馬とは相性が悪いんだ」
岨を下る音の中に寂しげにぽつりと呟かれた言葉はカテリーナだけに届くのだった。
―――――――――
いつも読んでいただき、ありがとうございます!
先週はおやすみして、すみませんでした。ちょっとした、風邪でした。
来週からは以前通りに日曜日に更新できるかと。
あとちょこちょこカテリーナ視点での短い与太話も混ぜていければなと思ってます。
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