第10話
頼まれごとを済まして、僕は装飾部門の担当場所にいた。
「ん? どうしたんだ?」
「こんにちは」
そこには美術部長がいた。
「なにか用?」
「ああ……犯人がわかったので」
「本当か?」
僕は頷いた。そして、右手を前に出した。
「な、なにさ」
「あなたが犯人ですね。部長」
「何を言ってるんだ君は」
「順に話していきます」
僕は笹谷有紀との話を思い出していた。
「屋上の部員に名前を聞いてきたかい?」
「はい」
あまりにも今更なことを彼女は僕に要求した。でもその答えは、全く違った。僕は彼女の顔をもう一度見るが、変化は無い。
「彼は……自分のことを恭一だと名乗りました」
「やっぱりな」
彼女は驚くこと無くそう言った。
「彼が悠斗だとするとおかしなことがある。一番顕著なのは絵だろうな。彼が持ち出した絵の具は学校のもの。そして学校のものは水彩画だ。しかし、悠斗は油絵を描く人間だ」
「でも、初めて会ったとき彼は油絵を描いていましたよ」
「そう。そして彼は文化祭の絵の担当だと言ったんだろ? 君の思う限り」
「はい」
「そんなもんです、か。だがそれは断定ではない。どうとでもとれる。矛盾には見えない」
「ではなぜ描いていたんですか?」
「代わりに描いていたのでは無いか? 悠斗は描けなくて悩んでいたんだろ? 借りに嘘だとしても、信じられ得る状況だったっていうだけで、代わる可能性はある。
続けるぞ。サッカー部員に声をかけられたのは真に恭一だったのかという問題が次に出てくるが、これを解決するパターンはいくつかある。私はその中で、一番面白いものを選択する。
恭一を名乗る彼が実行犯ならばいいんだよ。もし彼が悠斗ならば、部室を最後の出たのは彼だ。運び出しは簡単だろう」
「でもそれでもあれは大きいですよ?」
「君が最初にあの絵に感じた印象。パズルだと言ったな。もしあれが一枚のキャンパスならばおかしい。水彩画と油絵の両立なんていう、わからないことが起きている。では、なぜできたのか。
パズルだよ。あれは継ぎ接ぎの絵なんだよ。きっと小さな画面を繋いでいるんだ。ならば分解して運べる」
「ではベランダの彼は」
「本当の悠斗くんだろうな。かけなくて悩んで、文化祭を絵無しで乗り切ろうという腹だろうか。そこに部長が目をつけたんだ。最初の紹介は彼からだったからね」
「では、部長はなぜ?」
「わからない。でもそう考えるしか無い。この組み立て方は、私の特性と、君の特性を知っていないとできない。そして、今回の関係者の中でそこに当てはまるのは、部長だけだ」
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