魔法少女になるのって、ベリーベリー大変なのね

 少女は思った「魔法少女になるのって、ベリーベリー大変なのね」と。魔女はかなりオールドな魔女で、少女の想像していた魔法少女とは少し毛色が違ったのだ。


 一つ魔法を行使するにも、トカゲの尻尾、猫の髭、コウモリの羽を少女は集めなければいけなかった。運が悪いと、場合によっては警官の涙、電気羊の夢、宇宙の眼なんて、哲学めいたものまで用意する必要があった。


「私の想像する魔法少女だったら、杖を振るだけでビームが出てくるはずなのに!」


 実際、現代に生きる若い魔女、魔法少女、魔法使いは少女の想像の通り、杖を横に振ればビームが出てきて、縦に振れば、盾が出てくる、それも華やかに。しかし、少女の師匠は「邪道だと思わないかい? あんなのは。見た目ばかりに気を使って中身がない」と一蹴した。初めはそんな魔女の言葉に異論を唱えたかったけれど、だんだん、その言葉に納得することができるようになった。「お母さんの病気を治すために弟子入りしたのに、ビームなんか撃てるようになっても仕方がない」そう思いながら少女は、薬の調合のために、宇宙の眼を磨り潰した。


 勉強の時間以外では、魔女は少女に家の手伝いをさせた。洗濯とか、皿洗いとか、試験官やビーカーの洗浄とか、草むしりとか、窓拭きとか。少女は自分の家で、母の代わりに家事を行っていたので、ほとんどのことが問題なく片付けられた。しかし、やはり「魔法でぱぱっとやってしまえば、ぱぱっと終わるのに」と少女は考えていたが、そんな魔法、習ってはいなかったので、そのはかりごとは心の中にずっと留まることになった。


 ほとんどのことが問題なく片付けられた。と先ほど書いたが、それはあくまで少女の中で魔女は少女の行動一つ一つに意地悪くケチを付けてきた。特に草むしりについては、こっぴどく。


 例えばそれは、少女が書斎で本を読んでいた時の出来事だった。ドダバタと騒々しい足音が少女のもとに近づいてくる。書斎に溜まっている埃が舞ってしまいそうなくらい、慌ただしい足音だった。少女はその音に気づくと、パタリ、と本を閉じる。


「アンタ、アンタね。いったい何度言えばわかるんだい?

 その耳は飾りなのかい? それとも脳みそが空っぽかい?

 どちらにせよ——アンタ! 聞いているかい!」

「何? 魔女さま。私の耳は実用主義の賜物。人間の平衡機能に重要な役割を果たしているし、眼鏡かけにもなる。それとついでに、音を聞くこともできるんだから」

「じゃあ、脳みそが空っぽなんだね、アンタ。

 何度も言っているよ、アタシは。 

 雑草は! 根っこから! 引っこぬく!

 いいかい、そうじゃなきゃあ、またすぐ生えてくるんだよ」


 そう言って怒りっぽい魔女はまた、鼻をふん、と鳴らして、ドダバタと足音を鳴らして立ち去——る、のではなく、立ち去ろうとした。つまり、魔女は何かを思い返したかのように、その後言葉を付け加えた。


「つまり、つまりね。アンタらは表面上のことしか解決しようとしないのさ。問題は根っこから引っこ抜かなきゃ、次の問題を呼び寄せる。そのことをしっかりと、しっかりと胸にしまっときな」


 顔を真っ赤にした魔女はそう言ってまた、ドダバタと騒々しく足音を立てて、書斎から去っていた。


「まるで、嵐が去った後みたい」


 少女はポツリつぶやく。そして、「やれやれ、どうして怒りっぽい北の魔女なんかに弟子入りすることになったのかしら? 優しい南の魔女だったら、今頃……」と、思いを馳せるも、そんなことを悔やんでも、と少しメランコリーな気持ちになった。


 それにしても、と少女は魔女が一つだけ気になることを言ったのを思い出した。


「さっき、魔女さまは『アンタら』って言った。あれはいったい?

 私以外に、この館に見習い魔法少女がいるの?」


 少女はそう考えながら、本を本棚にしまって、雑草の根っこを狩りに外へと出かけた。それはちょうど一年ほど前のような、朗らかな陽光が照る一日のことだった。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る