「独り言が増えたら休憩する」


  少女は頬に伝う汗をぬぐいながら、どれくらい歩いただろうと疑問に思った。少女はすでに、二日ほど夜を越していた。けれど、目的地に着く気配はなかった。少女のカバンに詰められた食料は、まだ少しだけ余裕がある。それでも、疲労は解決しない。盛りに盛っている夏は、少女の体力を奪う。


「そもそも、この森ってこんなに広かったっけ?」


 少女は思わずつぶやく。それが一つのきっかけだった。「独り言が増えたら休憩する」と、ルールを決めていたのだ。そうと決まれば、と少女は丁度いい倒木に腰を押し付けて、中から枕を取り出した。そうしてお気に入りの本を開いて、少しだけ読み耽っていよう、この夏の日差しを、本の世界へ——少女はそう考えていたが、気づいた時には、本の世界ではなくて、夢の世界に誘われた。


 夢の世界の中で少女は朧げに思った。私も、お母さんも方向音痴なのだと。普段からぽけぇっと、生きているから、そうなの、と。


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