第30話・反撃と停滞とー2

 そんな壮太と美玖のやり取りを余所に、宗史そうし睦美むつみに声を掛けていた。

「組むか?」

「いいよ、私は誰とでも」


 そのまま、宗史は近くにいた正治まさはると鈴子、潤も誘った。


 申し訳なさげに、その輪に淳と康孝も近付こうとしたが、宗史はそれを制止した。

「裏切者は寄るな!」

 そう凄まれ、二人は後退りしながら、宗史の元を離れた。


 その様子を見ていたあかりも又、宗史から少し離れた。

 いくら主犯は修とはいえ、一緒になって並樹なみきをからかっていた宗史を、あかりは許す気にはなれなかった。


 離れた先にいた、大野浩平おおのこうへい津軽美智也つがるみちやに、あかりは声を掛けた。

 ただ、あかりとしては、誰でも良かった。宗史でさえなければ誰とでも。


 二人の了解を取ると、事ここに及んでも、まだ呑気な顔をしている浜田菜美はまだなみと、いつまでも椅子から転げ落ちたまま、腰でも抜かしたようにその場で震えている、八月朔日満里奈ほずみまりなの手を引っ張った。


 あかりは努めて明るい笑顔を二人に向けながら

「ほら、しっかりして、行くよ」

と励ました。


 その様子を見ていた壮太もすぐに、冬人、美香、そして香織に、一緒にやろうと提案した。

 いつの間にか冬人の脇に立っていた、クラスの中でも一番大人しい桑田希くわたのぞみが、そっと手を挙げた。

「わ、私も、い、いいかな」


「お、おう、歓迎するよ」

 いつもおどおどしている希。身長もクラスで一番小さく、お世辞にも運動神経はいい方とは言えない。

 いざとなったら足手まといになるんじゃないかと、壮太は心配になったが、すぐに自分の心の狭さを後悔した。


 そんな壮太の気持ちを察してか、香織がこう続けた。

「大丈夫。いざとなったら私が守ってあげるから、ね」

 そう言って、希にウインクして見せた。


 淳と康孝は、どうしていいか分からずオロオロしていた。

 そしてそれは、かいも同様だった。

 自分の保身しか考えていないかのような先程の海の発言に、皆が辟易へきえきしていたせいで、誰からも声を掛けられなかったのだ。


「ぼ、僕は、一人でやるからいいよ」

 誰に言うでもなく、海は強がって見せた。


 そう言って、海は周りを見渡したが、その視線に誰も合わせようとはしない。

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