第29話・反撃と停滞とー1

 提案と同時に速考で答えた美玖みくに、壮太は心から心配した。

「お、おい、女子だけで大丈夫なのか。もう少し慎重に考えてから・・・」

 動揺の色を隠せない壮太に、美玖の冷めた視線が刺さる。


「男子なんて、邪魔なだけよ」

 美玖は、教室内の男子を一瞥すると、すぐに髪を掻き上げながら目を逸らした。


 教室に入ってから、例の二人組の女子が出ていくまで、教室の隅で事の全てを冷静に観察していた冬人は見ていた。


 美玖もまた、ずっと冷静に自らの席を離れることなく、並樹達の一連の騒ぎが起こった後も、晴海と真子に手招きして、自身の方に呼び寄せていたことを。

 恐らくは、その時既に二人と話がついていたのだろう。


 そのまま教室から出ようとする美玖達に、壮太はもう一度声を掛けた。

「まあ待てよ。ちょっとでいいから、聞いてくれないか」

 教室のドアの前で足を止め、美玖は更に冷たい視線を壮太に向けた。


「まあ、聞くだけなら、ね」

 その言葉に、壮太は安堵し、そしてこう続けた。

「相手には男子もいるだろうし、そんな複数のグループに囲まれたらどうする気なんだ」


 何かを言おうとして、美玖は口を噤んだ。

 美玖には何か考えがあるのだったが、それをここで話したくはなかったからだ。


 壮太は更に言う。

「女子更衣室とか、女子トイレに潜もうとか思ってるなら、甘いぞ。例え相手が男子であっても、そんなモラルが通用するような代物じゃない事は、さっきの連中で分かっただろう」


 そう、この競技にモラルなんてものはない。

 そんなものがあるなら、あんな白衣の女子達に騙されることもなかったのだから。


「それだけ?」

 バカじゃないのとでも言いたげに、真子が言った。

「もういいよ、行こう美玖」

 晴海も真子に続く。


 美玖は無言で、その長い髪を振り回すように、首を大げさに前に向き直すと、晴海と真子を引き連れて出ていった。


「どうする?」

 最早どうしようもないだろうと思いつつも、一応冬人は壮太に聞いてみた。

「まあ、この中では一番度胸があるし、棚卸あいつなら大丈夫だろ」

 そう言いながらも、壮太はいつまでも、心配げにドアの方を見続けていた。

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