第28話・騙し合いー4
「‥‥‥油断したな」
壮太の言葉に、冬人も頷いた。前回の敗者である対戦相手は、敗者である以上外見も十五歳とは限らない。
いや、たとえ勝者であっても、体力的に不利と考えれば、あらかじめ自身の年齢を上げている可能性もある。
「力でねじ伏せるだけでなく、騙し合いもあり、か」
壮太はその人差し指で眼鏡を少し持ち上げると、この先どう動けばいいかを考えた。
教室に戻ると、数人が洋子の周りを囲んでいた。
中には泣いている者もいる。
洋子と仲良しだった鈴子が、その輪をかき分けて中に割って入った。
「洋子‥‥‥」
その場に膝から崩れ落ち、洋子の胸元に顔を埋めると、鈴子もまた泣き崩れた。
洋子は最早、見る影もない程に変わり果てていた。
頭髪は真っ白に染まり、眼尻には多くの皺が刻まれている。
唯一の救いは、洋子が眠る様に、笑顔で息を引き取っていた事だろう。
「だから言ったでしょう」
教室の隅に、ポツンと一人、まだスタッフの女はそこに腰掛けていた。
「既に競技は始まっている、って」
その声は皆に聞こえていたが、誰も反応はしなかった。
ー既に競技は始まっているー
たった今、その意味がその身に染みたばかりである。
ーー鈴子、立って」ーー
それは空耳でしかなかったが、鈴子は確かに洋子の声が聞こえたような気がした。
ーーしっかりして。せめて鈴子は生き延びてねーー
「うん、分かった」
そう言うと、鈴子は突然立ち上がった。
あっけに取られている皆に、鈴子はこう続けた。
「このままここに居ても、同じ事の繰り返しになっちゃうよ」
そう言って周りを見渡した。
洋子の年老いた姿、その変貌ぶりに言葉を失っていた冬人も、鈴子の言葉に続いた。
「そうだよ。まずはここから出なきゃ」
それを制したのは壮太だった。
「いや、まずはこの先どう動くか考えて‥‥‥そうだな」
ドアから廊下を見渡し、他に接近している者がいない事を確認すると、廊下からそのまま語り始めた。
「何組かのグループを組もう。さっきのように相手も複数で動いてる可能性がある以上、単独行動は危険だ」
その言葉にすぐに反応したのは、
「私達はこの三人で動くから」
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